HIV陽性者がエイズ発症を防ぐために服用する抗HIV薬と、薬剤耐性について調べてみました。
そこには私たちが風邪薬や頭痛薬を飲むのとはまるで違う服用の厳しい現実がありました。HIV感染症は確かに致死的疾患ではなくなったけれど、今なお怖い病気なのだと改めて実感しました。
私の調べたことを甥っ子の陽介に説明しますので、あなたもいっしょに聞いて下さい。
(甥っ子陽介)おじさん、今日はどんなお話ですか? |
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(私)陽介、今日は抗HIV薬の服用と、耐性の話だよ。 |
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(陽介)それっておじさん、前に「エイズの治療に使う薬とは?」、「抗HIV薬の使い方は?」って話で教えてくれましたね。
(私)うん、そうだったね。今回はその話のおさらいみたいな感じかな。実は国立感染症研究所エイズ研究センターのホームページに、「きちんとのむ」ってどんなこと?っていう大変分かりやすい説明記事が掲載されている。
その記事を読んで、今回もう少し陽介に話しておきたいなと思ってね。
(陽介)そうだったんですか。分かりました。ぜひお願いします。
(私)今回話したい内容と言うのは、HIVの薬剤耐性ってことに尽きるんだよ。
(陽介)薬剤耐性は前にも教えてくれましたね。要するにHIVが変異を繰り返す中で、段々と薬に対して耐性が出来て効かなくなってしまうってことですよね。
(私)その通りだ。イメージとしてはこんな感じだね。
図1.HIVの耐性化
人間の細胞が新しく作られるときは遺伝子情報通りに正確に作られないと大変だけど、HIVみたいなウイルスだとそんなに正確さは必要とされない。とにかく大量に自分のコピーを作りまくって増やすことが大事なんだね。
だから質より量で大量生産されるコピーの中に出来損ないの不良品が混じってる。この不良品が耐性化する可能性があるんだ。
(陽介)特にHIVは変異しやすく、結果として耐性化しやすいんですよね?
(私)その通り。だから未だにワクチンは作れないし、かつては有効な治療法もなかったんだ。
(陽介)それがARTと呼ばれる多剤併用法、つまり3種類の薬を同時に使う治療法で耐性を作らせないことに成功したんですよね。
(私)そうだよ。その結果、エイズで亡くなる人は劇的に減少し、ついにHIV感染症は致死的疾患ではなくなった。
(陽介)おじさん、今回追加で教えてくれるのはどんな情報なんですか。
(私)今陽介が言った、「HIVに耐性を作らせない」ための条件についてなんだ。
(陽介)う~ん、HIVに耐性を作らせない条件・・・
(私)早い話、抗HIV薬を飲んで、体内の血中濃度を常に適正範囲を保つことが何より重要なんだね。こんなイメージだよ。
図2.抗HIV薬の血中濃度
医師に処方された抗HIV薬を、決められた量、決められた間隔で飲み続ければ、薬の血中濃度が有効域に保てるって訳だ。
(陽介)なるほど。薬を飲み過ぎると血中濃度が高くなりすぎて副作用が出やすくなるんですね。
(私)そうだね。しかも、薬は沢山飲んだからといって効き目がよくなる訳でもない。
(陽介)逆に薬を飲み忘れたり、かってに中止したりすると、今度は無効域に入ってしまい、血中濃度が低くなってしまうんですね。
(私)そうだよ。当然、薬の効果が出ないし、まさにこの状態の時にHIVは耐性を得て薬に対抗出来るようになってしまう。目標トラフ値、すなわち血中濃度の最低ラインを割り込むと危険なんだよ。
(陽介)図2の有効域、つまり薬の効果が十分出てかつ副作用が出にくい、ここを維持することが重要なんですね。
(私)その通りだね。
(陽介)でもおじさん、いったいどのくらい飲み忘れたり、飲まなかったりすると無効域に入ってしまうんですか?人間だから100%完璧に忘れず飲むって難しいと思うんですけど・・・。
(私)国立感染症研究所エイズ研究センターのホームページによると、95%飲むと耐性が出来にくいと分かっているそうだ。
(陽介)95%ですか。何となく感覚的に分かりにくいですね。
(私)そうだね。それじゃ具体例で考えてみよう。例えば、1日1回飲んでるとしよう。1ヶ月30日とするとひと月当たり30回飲むことが必要だね。
そこに飲み忘れが発生したとすると・・・
1回飲み忘れ (30-1)÷30=96.7%
2回飲み忘れ (30-2)÷30=93.3%
となってしまい、2回飲み忘れで95%を割ってしまう。つまり、1ヶ月に1回まではいいけど、2回目の飲み忘れは耐性の危険が発生するってことだよ。
(陽介)う~ん・・・たった2回で危ないんですか。これは大変厳しいですね。
(私)むろん、飲む回数が増えれば95%の目安となる飲み忘れ回数も変わってくる。1日2回飲むとすればひと月に60回。すると、こんな感じだね。
1回飲み忘れ (60-1)÷60=98.3%
2回飲み忘れ (60-2)÷60=96.7%
3回飲み忘れ (60-3)÷60=95.0%
4回飲み忘れ (60-4)÷60=93.3%
こうなって、3回までは飲み忘れても95%を達成できる。
(陽介)確かにそうですね。元々の飲む回数が多ければ、飲み忘れる回数の余裕も多くなるでしょうね。でも、飲む回数が多いってことはそれだけ飲み忘れる回数も増えるリスクがあるってことですよね。
(私)その通り。薬を飲む回数が多いことは患者さんにとっての負担でもあるよね。抗HIV薬は段々と飲む量、回数が減ってきてる。それは患者さんへの負担を軽くするためだよ。
(陽介)そうでしたか。1日に2回薬を飲むより1回で済めばずっと楽ですよね。
(私)それだけに飲み忘れに対する注意も必要になるってことだね。
(陽介)おじさん、もしも治療に使っている薬に耐性が出来てしまって、効果がなくなったらどうするんですか?
(私)それはまた別の薬を使って治療することになるね。
(陽介)今薬の種類ってどのくらいあるんですか?
(私)うん、「抗HIV治療ガイドライン2016年3月」によれば、
①ヌクレオシド/ヌクレオチド系逆転写酵素阻害剤(NRTI) 10種類
②非ヌクレオシド/ヌクレオチド系逆転写酵素阻害剤(NNRTI) 5種類
③プロテアーゼ阻害剤(PI) 10種類
④インテグラーゼ阻害剤(INSTI) 4種類
⑤侵入阻止薬 1種類
同ガイドによれば、これらの薬の中から、
①2剤+④1剤
①2剤+③1剤(rtv併用)
①2剤+②1剤
こうした組み合わせで治療するんだよ。
(陽介)これだけ種類があって組み合わせれば、1種類の薬で耐性が出来ても大丈夫ですね。
(私)いや、そう安心ばかりもしてられない。「交叉耐性(こうさたいせい」と言う問題があるんだ。
(陽介)「交叉耐性(こうさたいせい」って何ですか?
(私)ある薬に耐性ができてしまうと、その薬と同じような特徴を持つ別の薬にも耐性が出来てしまうことを言うんだよ。
(陽介)え!まだ飲んでもいない薬に耐性が出来てしまうんですか!
(私)そうなんだよ。だから飲み忘れが発生して耐性が出来るのを極力避ける必要があるんだ。
(陽介)う~ん、分かりました。抗HIV薬のおかげでHIV感染症は致死的疾患ではなくなりましたが、一方で薬を飲み続ける大変さもあるんですね。
(私)そうだね。決して「HIV感染は薬があるから大丈夫」なんて軽々しく考えちゃいけないね。
(陽介)分かりました。
(私)今回は抗HIV薬の耐性について、以前にも話し済みだけど追加情報を話したよ。
(陽介)おじさん、ありがとうございました。
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