HIV感染症の治療に使われる薬はどんな使われ方をするのでしょうか。抗HIV薬の使用法をご紹介します。
私自身はHIV検査を受けた経験はありますが、結果が陰性だったため治療を受けたことはありません。ここにご紹介する記事は全て本を読んだり医療サイトから得た情報です。
従ってそれほど専門的に深く掘り下げた内容ではありません。ごく一般的な情報のみご紹介しています。そのつもりでお読みください。
(甥っ子陽介)おじさん、HIV感染症の治療に使われる薬はどんな使い方をするんですか? | (私)陽介、抗HIV薬の使い方はとても難しいんだよ。注意点が色々あるんだ。 |
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(陽介)おじさん、それはどんな注意点なんですか?
(私)うん、最も注意すべきはHIVに耐性が出来ないように注意するってことだね。
(陽介)HIVに耐性が出来る?それって、どういうことですか。
(私)元々HIVというウイルスは簡単に変異を繰り返すウイルスなんだ。エイズが登場してから最初の15年間くらいは効果的な治療法もなく、次々とHIV感染者がエイズで死んでいったね。
(陽介)はい。本当に恐ろしい病気でした。HIVに感染することが数年先の死を意味してました。
(私)それというのもどんな薬を使ってもすぐにHIVが変異して効かなくなるからだった。新しい薬を開発しても、すぐにその薬が効かないHIVが現れてしまうんだね。
(陽介)そんなふうに薬が効かなくなることを「耐性ができる」って言うんですね?
(私)そうだね。これはHIVに限らず他のウイルスや細菌にもあるんだよ。こうした病原菌の耐性はとてもやっかいだね。
(陽介)それじゃどんなふうにエイズ治療の薬を使えばいいんですか?
(私)うん、おじさんが調べたところ、HIVの耐性が出来ないようにするためには2つ大事なことがある。
1.抗HIV薬を3種類以上組み合わせて使用する。
2.抗HIV薬は決められた量を決められた時間に正確に服用する。
この2つだよ。
(陽介)うーん、2番目は何となく分かりますが、1番はどういう意味ですか?
(私)HIVに対して1種類の薬だけを使ったのではすぐに耐性が出来てしまうんだ。ところが同時に3種類以上の薬を使うとHIVは耐性を作ることが出来ない。⇒補足資料①
(陽介)へぇ、そうなんですか。でも、どんな組み合わせがいいんですか?
(私)それはね、個人差があって一概には言えないんだよ。副作用の問題もあるしね。前回、『エイズの治療に使う薬とは?』という話をしたね。覚えてるかい?
(陽介)はい。体内でHIVが増殖するのを防ぐ薬ですね。確か5種類ほどありましたね。⇒補足資料②
(私)そうだったね。その5種類の中にもいろんな薬があるから、実際の組み合わせはずい分沢山あるよ。その組み合わせの中から、その人に最も効果的で、なおかつ副作用の少ないものを選ぶんだよ。
(陽介)なるほど。
(私)それとは逆に、この組み合わせは効果がないからいっしょに服用しない、あるいは副作用が強くなるからいっしょに使わない、という組み合わせもあるんだよ。
(陽介)そうなんですか。それじゃどの薬が一番ピッタリ合うか、探して決めるのは大変ですね。
(私)そうだね。それに病気はHIV感染症だけとは限らない。すでに糖尿病や肝機能障害などの病気になっている患者さんもいるからね。その場合はその病気の治療も考慮しないといけない。
(陽介)あ~、それもありますね。やっぱりHIV感染症やエイズの専門病院じゃないと治療は難しいですね。
(私)そうだね。でも現在は全国に拠点病院があるからそこで専門医療が受けられるよ。⇒補足資料③
(陽介)それからさっきのHIVの耐性が出来ないための2番目を説明してください。
(私)了解。これも大変重要なことだよ。病院の専門医から処方された薬は決められた量を、決められた時間に飲まななくてはいけないんだ。
(陽介)それは分かります。でもおじさん、それってどんな薬でもそうでしょう?僕が風邪をひいて薬を処方された時も、毎回食後にカプセルを1つと粉薬を1包飲んでんください、なんて言われますよ。
(私)そうだね。確かにどんな病気のどんな薬でも飲む量と時間は指定されるね。
(陽介)はい。別にHIVだけじゃないと思いますけど・・・
(私)でもね、陽介は医者にもらった薬を完璧に指示通り飲んでるかい?
(陽介)え?うーん・・・それは時々飲み忘れたりすることはあります。それに分量を間違うこともたまにあります。
(私)そうだろうね。風邪薬や腹痛なんかの薬だと、1日3回飲むように指示されているのをうっかりして朝は飲まなかったとか、夜は飲まなかったとかあるよね。あるいは1日に1回の薬だと、飲まない日があったりするね。
(陽介)はい、あります。
(私)ところが抗HIV薬の場合、そんな飲み忘れや分量間違いは絶対にやっちゃいけないんだよ。それをやるとHIVが耐性を持ってしまう危険性があるんだ。
(陽介)えー!そうなんですか!
(私)つまり、血液中の薬の濃度をある範囲で一定に保つ必要があるんだよ。飲み忘れたり、分量を間違うと血中濃度がキープ出来ない。するとHIVの増殖を抑えていた効果が薄れてしまうだけじゃなく、HIVが耐性を持ってしまう危険性があるんだ。
(陽介)そうなると困りますね。その薬はもう効かなくなるってことですよね。
(私)そうだよ。以後に使える薬がどんどん限られてしまうね。そしてもしもそんな耐性をもったHIVが他の人に感染したら、感染した時点で移された人はすでに使える薬が限られてしまうんだ。HIVが感染するときは耐性を持ったまま感染するからね。
(陽介)そうなると薬を決められた通りに飲むことはとても大事ですね。うっかり忘れた、なんて言ってられませんね。
(私)そうなんだ。しかも、現状ではHIVはいったん感染すると完治させることが出来ないから、薬も飲み始めれば一生続くんだ。それを考えると患者が薬を正しく飲むことの負担は大きいね。
(陽介)はぁ・・・。そうですね。お酒を飲むことだってあるし、旅行に行くこともありますからね。あ~、僕なら自信ないです・・・
(私)まぁ、決められた時間にと言っても、30分や1時間の誤差は問題ないよ。厚生労働省のホームページによるとプラスマイナス2時間までは大丈夫だと書いてあるね。⇒補足資料④
(陽介)それじゃ飲み忘れはどうなんですか?1回でも飲み忘れたらすぐに影響があるんですか?
(私)それはハッキリしないね。おじさんが調べてみたら、『これでわかるHIV/AIDS診療の基本』(南山同)に参考データが載っていた。その本によると、抗HIV薬の服用率が95%以上の場合、治療の成功率は78.3%となっていたよ。
(陽介)95%ってことは、1ヶ月で言えば・・・うーんと・・28.5日ですね。ということは1.5日しか飲み忘れがないってことですね。2ヶ月で3日かぁ・・・厳しいですね。
(私)これも飲んでいる薬や患者一人ひとりの症状によって差があるよね。だから厚生労働省のサイトによれば「何回までなら飲み忘れても大丈夫というデータはない」と書かれているよ。
(陽介)そうなんですか。それじゃとにかく飲み忘れのないように、決められた量と時間や回数を絶対に守る、ということですね。
(私)そういうことになるね。とても大変なことだと思うけどね。ただ、年々薬の大きさは小さくなっているし、1回に飲む量は減っているし、1日に飲む回数も減ってきてるんだ。なるべく患者の負担を減らすような取組はされているんだね。
(陽介)せめてそうであって欲しいですね。
(私)それからもうひとつ大事なことを説明しておくね。抗HIV薬の目的はHIVの増殖を抑えることだと言ったね。それじゃ治療が成功したかどうかは、何で判断すると思うかい?
(陽介)うーん、それは難しい質問ですね。現状では完治することがない訳ですから、いかに体内のHIVを減らすことが出来るか、そこですか?
(私)大正解だよ。前にHIV-RNAの話をしたよね。⇒補足資料⑤
(陽介)体内のHIVの量を測る指標ですね。覚えています。
(私)そうそう、それだ。それで血中のウイルス量を測るんだけど、これが検出限界である40コピー/mlまで抑え込めれば一応治療は成功と言えるんだよ。(『これでわかるHIV/AIDS診療の基本』による)
このレベルなら免疫不全に陥ることもないし、ウイルスが耐性を持つ可能性も小さい。
(陽介)そうなんですね。それじゃ定期的にHIV-RNAを測定する必要がありますね。
(私)その通りだよ。それにCD4や抗HIV薬の血中濃度も調べるよ。使っている薬の選択が正しかったか、またちゃんと服用されているかをチェックするんだ。
(陽介)なるほど。分かりました。
(私)抗HIV薬の使用法についてはまだまだ今の話以外にも大事なことは沢山あるけど、それはまた次の機会にしよう。取りあえず今回の話をまとめておくね。
●抗HIV薬による治療目的はHIVの増殖を抑え、血中ウイルス量を40コピー/ml以下に維持すること。
●そのためHIVが耐性を持たないようにする必要がある。
●抗HIV薬は3種類以上を組み合わせて使用する。(ART)
●抗HIV薬は決められた服用法を守り、薬の血中濃度を一定に保つ。
こんな感じかな。
(陽介)分かりました。早くHIVが完全に退治できる薬が出来るといいですね。
(私)そうだね。では今回はこの辺で終わりにしょう。
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補足資料
①エイズの治療とは?
ARTと呼ばれる治療法。この方法によってエイズで死ぬ人が劇的に減少した。
③全国のHIV拠点病院マップ
ブロック拠点病院、中核拠点病院、拠点病院が都道府県別に検索できます。
④『抗HIV薬Q&A』
厚生労働省が運営するサイトです。