あなたが保健所や病院でHIV検査を受けるとき、一般にはHIV抗体検査を受けます。そのHIV抗体検査ではS/CO値によってあなたのHIV感染を判定しています。
では、HIV抗体検査におけるS/CO値とはいったいどんなものでしょうか?
私が調べたことを甥っ子の陽介に説明するので、あなたもいっしょに聞いてください。これからHIV検査を受けるあなたには参考になると思うし、当分HIV検査の予定のないあなたは一般知識としてぜひどうぞ。
(甥っ子陽介)おじさん、HIV検査のS/CO値っていったい何のことですか? | (私)陽介、それはね体内のHIV抗体が基準値よりも多いか少ないかを示す指標だよ。 |
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(陽介)うーん、HIV抗体の基準値?ますます訳が分かりません。もっと僕にも分かるように易しく教えてください。
(私)分かったよ。まず、HIV検査についておさらいしておこう。今までに陽介に教えてきたHIV検査って、どんなのがあったかな?
(陽介)えーっと。検査で見つける対象によって3種類あったと思います。
確か・・・
●HIV抗体検査
HIVに感染すると生成されるHIV抗体を見つける検査。保健所や病院のスクリーニング検査に使われる。
●HIV抗原検査
HIVを構成するタンパク質の一種を見つける検査。抗体検査とセットで第四世代のHIV検査と呼ばれる。HIV抗体検査よりも早期の検査が可能。
●核酸増幅検査
HIVの遺伝子を人工的に何万倍にも増幅して見つける検査。NAT検査と呼ばれHIV感染から11日で検査可能となる。献血で集めた血液検査にも使われている。
この3種類ですよね。
(私)そうだね。今陽介が説明してくれたようにHIV抗体検査とは、体内にHIV抗体が生成されているかどうかを判定する検査だね。直接ウイルスを見つける訳じゃないけど、HIVに感染すれば必ずHIV抗体が現れるのでこの検査方法が保健所や病院で一般的に使われている。
(陽介)それで最初の質問に戻るんですけど、HIV抗体検査のS/CO値って何ですか?
(私)S/CO値とは、
S=Sample
CO=Cut Off
の略だよ。
(陽介)うーん、サッパリ何のこだか分かりませんけど?
(私)Sample=サンプルとは検体のこと。Cut Off=カットオフ値とは陽性か陰性かを決める基準値だよ。
(陽介)サンプルをカットオフ値で割り算するんですか?
(私)そうだよ。割り算する意味は、サンプルの値がカットオフ値よりも大きいか小さいかを判定するためだ。
(陽介)・なるほど。割り算の結果が1より大きければ分子が分母より大きく、1より小さければ分子は分母より小さいってことですね。
S/CO>1・・・サンプル値がカットオフ値より大きいのでHIV陽性判定となる。
S/CO<1・・・サンプル値がカットオフ値より小さいのでHIV陰性判定となる。
ってことですか?
(私)その通り。ただし、前にも話した通りHIV抗体検査はスクリーニング検査であり、陽性判定を受けてもまだ確定はしない。この次に確認検査を受けて、そこでも陽性となって初めて陽性が確定する。
(陽介)そうでしたね。それはS/CO値とも関係するんですか?
(私)当然関係するね。例えばS/CO=1.1だったとする。これはカットオフ値をわずかだけど超えているのでHIVに感染している可能性はある。例えばHIV感染の初期でまだ抗体の量が少ない場合かも知れない。しかし、このくらいの値だと本当はHIVに感染していない偽陽性かも知れない。
でも、S/CO=100だったとしたら、これは本当にHIVに感染している可能性が強い。
(陽介)なるほど。S/CO値によって偽陽性か、本当にHIVに感染しているか、ある程度分かるってことですね?
(私)そうだね。もちろん、最終的には確認検査をしてみないと正確には分からないけどね。ただおじさんが調べた限りではS/CO値が1.0に近い場合は偽陽性である可能性が高い。
(陽介)そうなんですか。僕はHIV抗体検査って陽性か陰性か、プラスかマイナスかの2つに1つだと思ってました。実際にはそんな1か0かの判定じゃなくてもっとアナログ的な判定なんですね。
(私)そうなんだよ。HIV抗体が体内に生成されているかどうかを調べるとき、実際に抗体そのものを確認する訳じゃない。HIV抗体に反応する抗原を使って、どのくらいの反応があるかを見るんだよ。反応が強いほど抗体が多いと判定される。
このとき、HIV抗体に近い性質の物質があると抗原にある程度反応してしまう。それがS/CO値が1.0を超える偽陽性発生の原因なんだよ。
(陽介)なるほどです。それでHIVに感染していない陽性の人でもS/CO値は0にはならないんですね。
(私)そうだよ。HIV抗体以外の物質が反応してしまうからね。しかも、HIV抗体検査によるスクリーニング検査ではHIVに感染している人を絶対に見逃さないよう感度を上げている。
つまりカットオフ値のハードルを下げているんだよ。ちょっとでも疑わしい人は取りあえず陽性判定にしてふるいにかけ、確認検査で更に正確な検査をするんだ。
(陽介)そうでしたね。逆に言えばHIV抗体検査で陰性判定を受ければその時点でHIVには感染していないことが確定するんですよね。
(私)その通りだ。ただし、ウインドーピリオドは過ぎていることが条件だけどね。
(陽介)それじゃ実際問題としてカットオフ値はどうやって決めるんですか?
(私)おじさんが調べたところ、統計的な手法によって決めているらしい。つまり、HIVに感染している人、感染していない人のデータを沢山集め、このカットオフ値ならHIV感染を見逃すことはない、という値を決めているんだよ。
ただし、いくら感度を上げるといっても偽陽性の人が大勢出てくるとスクリーニング検査の意味がない。現状のカットオフ値はHIV感染者は見逃さず、かつ偽陽性が100人に1人とか、そんな感度だね。
(陽介)なるほど、おじさんよく分かりました。ところで保健所や病院でHIV抗体検査を受けるとS/CO値まで教えてくれるんですか?
(私)そこはおじさんもよく知らない。以前、おじさんが保健所でHIV検査を受けたときは単に「陰性」と書かれた紙しかもらわなかった。その紙にはS/CO値は書いてなかったね。
(陽介)そうなんですか。
(私)ネットで調べてみると病院でHIV検査を受けた人はけっこうS/CO値の数値結果をもらった人が多いようだね。有料で検査を受けると検査結果をデータで渡してくれるのかも知れない。
(陽介)あ~なるほど、そうかも知れませんね。
(私)HIV抗体検査のS/CO値について、分かってもらえたかな?
(陽介)はい、分かりました。保健所や病院で受けるHIV抗体検査はどうやって陽性、陰性の判定を行っているのか理解できました。
(私)まぁ、実際問題として我々がHIV抗体検査を受けるにあたってS/CO値の意味を知らなくても困ることないけどね。ただ、病院で検査を受けてS/CO値を知らされたとき、意味を知っておくといいよね。
例えば検査結果を「陰性」と知らされて、でもS/CO値が0になっていないと不安になるかも知れないよね。実は0にならなくても1より小さければ感染していないと知っておけば安心だ。
(陽介)本当にそうですね。
(私)最後にもう一つ付け加えておくと、S/CO値は決してHIV検査だけで使われる指標じゃない。例えばウイルス性のB型肝炎、C型肝炎などの血液検査でも一般的に広く使われているよ。
(陽介)なるほど、そうなんですか。それじゃ知っておくと便利ですね。
(私)そうだね。では今回の話はこれでお終いだ。
(陽介)おじさん、ありがとうございました。
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補足資料
①S/CO値については、読者のKさんから「signal to cutoff ratio」の方が一般的な用法であるとのご指摘を頂きました。Kさん、ご指摘ありがとうございました。ここに追記させて頂きます。(2015/7/11)