HIV感染症に関する本や医療サイトを見ると、必ずこう書いてあります。

「HIVは(健康な)皮膚からは感染しない」

しかし、自分のHIV感染を心配する人の中には、他の誰かの血液や体液を指で触ったことが気になって仕方ないという人がいます。もっと気になる人は使い捨てのティッシュやタオルを触ったことを気にします。

でもHIVは皮膚からは感染しません。感染するのは粘膜部からです。では粘膜部からは感染するのになぜ皮膚からは感染しないのでしょうか。これ、あなたは不思議だと思いませんか?

私なりに調べた結果を甥っ子の陽介に説明しますから、あなたもいっしょに聞いてください。

(甥っ子陽介)おじさん、HIVはなぜ皮膚からは感染しないんですか? (私)陽介、それはHIVの増殖方法に理由があるんだよ。
陽介 私

(陽介)HIVの増殖の方法に理由がある?おじさん、それはどういうことですか?

(私)HIVがなぜ皮膚からは感染しないのか、それを話す前にHIVがどうやって自分のコピーを作るか、そこから説明しょう。そこれが分かると皮膚から感染しない理由も分かるんだよ。

(陽介)へぇ、そうなんですか。

(私)まず、HIVを始めとするウイルスはみんな自分だけの力では自分のコピーを作ることが出来ない。体内で感染して取り付いた宿主細胞をうまく利用するんだ。

(陽介)HIVが感染した細胞を利用するんですか?

(私)そうだよ。そもそもウイルスは自分の遺伝子としてDNA、RNAのどちらか片方しか持っていないんだ。だからDNAウイルスとかRNAウイルスとか呼ばれるんだよ。

(陽介)HIVはどちらなのですか?

(私)HIVはRNAしか持っていないからRNAウイルスだ。

(陽介)おじさん、そもそもDNA、RNAってどんな働きをするですか?

(私)おじさんも難しいことは分からないから、分かってる範囲で簡単に説明するね。DNAというのは言わば遺伝の設計図だよ。肌の色や目の色や、体の特徴や性格など、普通親から子に遺伝するとされる情報が詰まっている。

(陽介)なるほど。DNAは遺伝の設計図なんですね。では、RNAはどんな働きをするんですか?

(私)RNAはDNAの設計図をいったんコピーする働きをするんだ。これを転写と言うんだよ。このRNAに転写された情報を元にして新たにタンパク質が作られるんだ。DNAから直接タンパク質を合成することは出来ないんだよ。

(陽介)なるほど、DNAが設計図で、RNAはその設計図を転写してタンパク質を作らせる働きをするんですね。

(私)すごくおおざっぱに言えばそういうことだよ。

(陽介)あれ?だけどおじさん、HIVにはRNAしかないんでしょう?どうやって自分のコピーを作るんですか?

(私)そこだよ。いよいよ本題に入っていくね。今陽介が言ったようにHIVには遺伝子はRNAしかない。だからHIVの設計図はRNAの中に入っているんだ。それをDNAに転写して、タンパク質を作るんだ。これは普通の生物とは逆の流れになるから、逆転写と言うんだよ。

(陽介)えー、でもおじさんHIVにはRNAしかないから、DNAに逆転写したくても出来ませんよ。どうやって逆転写するんですか?

(私)そこがHIVの恐ろしいところだよ。HIVは自分が感染して取り付いた細胞のDNAを利用するんだ。HIVのRNAに入った情報を宿主細胞のDNAに逆転写してしまうんだよ。

(陽介)うーん・・・するとどうなるんですか?

(私)HIVに取りつかれた宿主細胞のDNAには、HIVのRNA情報が転写されてしまう。つまり、その細胞は本来自分のコピーを作るはずなのに、HIVのコピーを作ってしまうんだ。

(陽介)えー!HIVのコピーを作ってしまうんですか?

(私)そうなんだ。しかもHIVが感染して取り付く細胞はCD4陽性Tリンパ球(ヘルパーT細胞)という免疫細胞なんだ。この免疫細胞は免疫機能の中枢細胞で、本来ならHIVを攻撃してやっつけるはずの細胞なんだよ。

(陽介)あちゃー!本来ならHIVを攻撃するはずの細胞がこともあろうにHIVのコピーを作ってしまうんですか!

(私)そうなんだ。まぁ、ここではHIVの増殖の仕組みは詳しく触れない。ともかく、HIVが感染するには体内に入り込んで、宿主細胞であるCD4陽性Tリンパ球に取り付くことが条件なんだよ。そうしないと自分のコピーが作れない、すなわち感染することが出来ないんだ。

(陽介)なるほどHIVが感染して自分のコピーを作る方法は分かりました。

HIV増殖のメカニズム

(私)さて、そこで最初の本題に戻ろう。なぜHIVは皮膚からは感染しないのか?だったね。それはHIVが皮膚に付着しているだけでは体内に入れないし、宿主細胞に取り付くことも出来ないからだよ。つまり増殖することは出来ない。よって感染することもないんだ。

(陽介)人間の皮膚って、HIVを体内に入れないバリヤーみたいな働きをするんですね。

(私)そうだよ。まさに皮膚も免疫機能を持っている。ウイルスなどの病原菌に対してはバリヤーの働きをするんだ。ただし、皮膚から感染する病気もあるから、どんな病気も完璧に防げる訳でもないよ。

(陽介)でもおじさん、もしも皮膚に傷とかあったらどうですか?その場合でもHIVは感染しないんですか?

(私)いやいや、そうはいかない。あくまでも健康な皮膚からはHIVは感染しないけど、傷があればそこから侵入して血管に入ってしまう可能性がある。血管に入ればそこには宿主細胞であるCD4陽性Tリンパ球が沢山いるから感染してしまう。

(陽介)そうなんですね。HIVは皮膚から感染しないと言っても、それは健康な皮膚に限られるんですね。

(私)そうだよ。傷はむろんだけど、炎症を起こしている場合も同様だね。要は皮膚が健康、正常じゃない部分からはHIVが体内に侵入し、感染する可能性があるんだよ。

(陽介)分かりました。では、おじさんHIVは粘膜部からはどうして感染できるんですか?

(私)うん、HIVは粘膜部からは感染するね。粘膜部は皮膚に比べてバリヤーの働きが弱く、HIVが侵入しやすいんだ。元々粘膜部は細胞が内部と外部で物質のやり取りをしやすいように出来てる。粘膜部を通して不要なものを排出し、必要なものを取り込むんだよ。だから粘膜部は上皮組織と呼ばれる一層しかない。HIVが侵入しやすい訳だよ。

(陽介)なるほど。確かに皮膚と粘膜部って、見た目も触った感じもかなり違いますよね。

(私)そうだよ。人間の皮膚って、何層にもなっていて、外部から皮膚を通して内部に侵入し、血管までたどり着くのは難しいんだ。ちょっとこの図を見てごらん。皮膚はこんな感じになっているんだよ。

皮膚の構造

 

(陽介)うわー!こんなに何層もあるんですか。これじゃ中まで入ってくるのは大変ですね。

(私)そうだよ。だから皮膚はバリヤーとして働いてくれるんだ。

(陽介)HIVが皮膚から感染しない理由がよく分かりました。

(私)ただし、傷や炎症のある皮膚からはHIVが感染する可能性があることを忘れないようにね!

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