国連合同エイズ計画(UNAIDS)から用語ガイドラインの2015年日本語版がネット上で公開されました。
私が読んでみてこれは!と思うものを甥っ子の陽介に話したいと思います。あなたも一般知識としていっしょに話を聞いてもらえると嬉しいです。
(甥っ子陽介)おじさん、UNAIDSの用語ガイドラインって何ですか? | (私)陽介、そもそもUNAIDSって知ってるかい? |
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(陽介)う~ん、いつかどこかで聞いたことあるみたいな・・・。
(私)UNAIDSは、Joint United Nations Programme on HIV/AIDSの略で、日本語では国連合同エイズ計画と呼ばれてるね。
(陽介)何となく日本語としては変な感じですね。「エイズ計画」ってピンと来ません。
(私)正直私にもよく分からないけど、世界各国が合同でエイズ対策を計画的に進めようってことじゃないのかな。1996年エイズ対策の国際的な調整を目的として発足した国連(UN)機関だよ。本部はジュネーブに置かれてる。
(陽介)なるほど。そのUNAIDSからHIVやエイズに関する用語ガイドが出てきた訳ですね。
(私)そうだよ。2015年版の日本語版がエイズ予防情報ネットに公開されている。
(陽介)それって適正な用語の使い方を促進するためにって感じですか?
(私)そうそう、まさにそうだよ。間違った用語の使い方が人権侵害だったり偏見や差別を生むことがあるからね。
(陽介)そうですね。僕らも知らずに間違った用語使いしてるかも知れません。
(私)それじゃ全部を説明するのは無理だけど、用語ガイドの中から私がちょっと気になったものをいくつか教えてあげよう。
(陽介)はい、お願いします。
(私)まずは一番基本的な使い方から。
「エイズ感染者」
これは間違い。それじゃ陽介、正しい用語は?なぜこれが間違ってる?
(陽介)あ、これは分かります。正しくは「HIV感染者」でしょう?感染するのはエイズじゃなくてHIVと言うウイルスですよね。エイズはHIV感染によって免疫力が低下し、エイズ指標疾患を発症した状態を指す言葉ですよね。
(私)そうだね。ただし用語ガイドラインの中では「HIV感染者」ではなく、「HIV陽性者」を使うようガイドされている。
(陽介)へぇ、そうなんですか。
(私)そう。だからガイドラインの中では、
「エイズ感染者」・「HIV感染者」⇒「HIV陽性者」
とするようガイドされてる。「HIV感染者」より「HIV陽性者」を使う明確な理由がちょっとピンと来ないけどね。もしかしたら英語表記上の問題なのかも知れない。
(陽介)そうなんですね。
(私)それじゃお次だ。「エイズキャリア」、これはどうだい?
(陽介)あ、これはさっきと同じ間違いですね。正しくは「HIV陽性者」でしょう?
(私)その通り。「エイズキャリア」と言う表現は間違った用法であり、HIV陽性者を傷つける表現とされている。
「エイズキャリア」⇒「HIV陽性者」
それじゃ「エイズ検査」はどうだい?
(陽介)これも同じパターンですね。検査するのはエイズじゃなくて、HIV抗原だったり、HIV抗体ですよね。だから正しくは「HIV検査」、「HIV抗体検査」です。
(私)大正解!
「エイズ検査」⇒「HIV検査・HIV抗体検査」
それじゃ「エイズウイルス」はどうだい?
(陽介)それも同じですね。エイズはウイルスじゃないので間違いです。HIVですね。
(私)それじゃ「HIVウイルス」は?
(陽介)それも間違いです。HIVは、
Human immunodeficiency virus(ウイルス)
の略であり、ウイルスが含まれてるのでHIVの後にウイルスをつける必要ないです。
(私)これも大正解!簡単過ぎたかな。
「エイズウイルス・HIVウイルス」⇒HIV
それじゃこれはどうかな?
「薬物中毒者」
「薬物乱用者」
「静脈注射薬物使用者」
どうだい?
(陽介)あ!これはHIV陽性者やエイズ患者の感染ルートに出てくる用語ですね。確かエイズ動向委員会の資料にも、
「静注薬物使用」
って表記がありますね。
(私)そうだね。UNAIDSではこうした表現はいずれも侮蔑的な意味を含む用語としてる。実際に薬物使用者に接する時、こんな表現だと相互の信頼関係が構築出来ないとしてるんだよ。
それに静脈注射だけでなく皮下注射や筋肉注射もあるので正確性にも欠けるとしてるんだ。
それでガイドラインでは、
「薬物を注射する人」
と表現するよう案内されている。
(陽介)なるほど。それじゃエイズ動向委員会の資料表記も変わるんですかね。
(私)さぁどうだろうね。すぐには変わらないかも知れないけどいずれ変えるんじゃないか。それじゃお次だ。
「エイズを終わらせる、エイズ終結」
「HIV を終わらせる、HIV 終結」
「HIVを排除、エイズを排除」
「HIV 根絶、エイズ根絶」
こうした表現はどうだい?
(陽介)う~ん・・・。何でしょう。使ってもいいような気がしますけど、ダメなんですか?
(私)そうなんだよ。こうした表現は、こんなふうに変えて使って欲しいそうだ。
「公衆衛生の脅威としてのエイズ流行終結」
「 流行の終結に向かう」
「エイズ流行の終結に向かう」
「エイズ流行を終わらせる」
「流行を終わらせる」
ガイドの説明によると、今の医学ではHIVを完全に排除することは出来ないので、「HIV排除」「HIV終結」「HIV根絶」は現実的ではない、と言う見解だね。
しかし、一方では医学の進歩によって「公衆衛生上の脅威としてのエイズの流行を終わらせる」ことは可能って訳だ。
(陽介)そうですか。言われてみればそうですけど、ややこしい気もします。つまり、HIVの完全排除は出来ないけど、エイズ発症を防ぐことは可能だということですね。
(私)そうだね。それじゃこれはどうかな。
「(より)リスクの高い集団 high(er)-risk group」
これはHIV感染の多い集団として説明されることがあるよね。例えば性風俗従事者みたいな場合だね。
(陽介)そうですね。時々見かけますよね。これ、使っちゃダメなんですか?
(私)そう、ダメだね。この表現だとリスクがその集団の内部にあるような印象を与えるからダメだって。実際にはリスクはグループにあるのではなく個人の行動にリスクがあるんだよね。
だからハイリスクグループとしてひとくくりにすることは個人の差別や偏見につながる恐れがある訳だ。
(陽介)なるほど。言われてみれば確かにそうですね。
(私)ガイドラインには他にもまだ色んな事例が出ているので、時間があったらゆっくり見て欲しいね。
(陽介)はい。分かりました。
(私)それじゃ今回はこれでお終い。
(陽介)おじさん、ありがとうございました。
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