抗HIV医療の進歩のおかげで、HIV感染症は致死的疾患から慢性疾患に近づきました。

その結果、HIV陽性者の高齢化問題という、新たな課題を生み出しています。

今回は財団法人エイズ予防財団の「エイズ相談マニュアル」から私の調べたことを甥っ子の慎太郎に話したいと思います。

どうぞあなたもごいっしょにお聞きください。

HIV陽性者の現状を知って頂くきっかけになれば幸いです。

(甥っ子慎太郎)おじさん、今日はどんなお話ですか?
陽介
(私)慎太郎、今日はね「HIV陽性者の高齢化問題」について話そうと思うんだ。
私

(慎太郎)HIV陽性者の高齢化問題ですか。

(私)そうなんだ。まずね、グラフを3つ見て欲しい。

最初のグラフがこれだ。エイズ病変死亡者の推移を表したグラフだよ。

エイズ病変死亡者の推移

かつてはエイズを発症するとほぼ2年以内に死に至ったけど、1997年頃から始まったARTと呼ばれる抗HIV治療によって亡くなる人は激減したんだ。

(慎太郎)確かにそうですね。決してエイズ患者が減ったから死亡者が減ってる訳じゃないですよね。

(私)そうだよ。1997年の新規エイズ患者は249人、2015年は428人だ。残念ながら新規エイズ患者は減るどころか増え続けている。

でも、上のグラフの通り亡くなる患者は激減した。

そこで、2つ目のグラフを見て欲しい。これは平成27年の新規エイズ患者を年代別に分布図にしたものだよ。

エイズ年齢分布

グラフを見て分かるように、50歳以上が新規エイズ患者全体の26.6%を占めている。

(慎太郎)つまり、新規エイズ患者の4人に1人以上は50歳以上ってことですね?

(私)そうなんだ。

(慎太郎)う~ん、高齢者にもエイズ患者は多いってことですね。

(私)それじゃ最後、3つ目のグラフを見てもらおうかな。今度は新規HIV感染者の年代別分布だよ。

新規HIV感染者の年代別分布

新規HIV感染者の方は50歳以上が全体の11%を占めている。エイズ患者ほどの比重じゃないけど、やはり年齢に関係なくHIVは感染する。

(慎太郎)え~っと、エイズ患者とHIV感染者を合計して50歳以上の比率を計算すると・・・

(私)平成27年にHIVに感染した人はエイズを発症した人も含めて全部で1,434人。そのうち50歳以上は225人で15.7%を占めている。

(慎太郎)僕が思ってた以上に多いですね。どうしても若い人中心だとイメージしてました。

(私)そうだよね。でも実際には50歳以上の年代にもHIV感染者、エイズ患者は存在する。しかも、最初のグラフで見てもらったように、エイズで亡くなる人は激減している。

(慎太郎)なるほど。だから今後はますます高齢のHIV陽性者が増えていく訳ですね。

(私)その通りだよ。今見てもらった3つのグラフから言えることは、これからもっと高齢のHIV陽性者が増えていくってことだ。

その上で、知って欲しいのが今回の話である、「HIV陽性者の高齢化問題」なんだよ。

(慎太郎)ふ~ん、「HIV陽性者の高齢化問題」って具体的には何ですか?

(私)エイズ予防財団がネットで公開している「エイズ相談マニュアル」の中で、佐久総合病院の高山義浩氏が次の3点を指摘しているんだ。

1.免疫の回復が不良となっていく問題

2.HIV感染症以外の高齢者に多く見られる疾患の問題

3.介護者不在問題

この3つだ。

(慎太郎)3番目はすぐにピンときますが、1番と2番はよく分かりません。どんな問題なんですか?

(私)1番はね、抗HIV治療を行っているのに免疫力の低下が止まらないってことだ。CD4値が下がって行く。

むろん、ちゃんと薬は決められた通りに飲んでいるにもかかわらずだ。

(慎太郎)HIVが薬に対して耐性を持つってことですか。

(私)いいや、耐性の問題ではない。

(慎太郎)薬はちゃんと飲んでるし、耐性の問題でもないとすると・・・?免疫力が低下していく理由は何ですか?

(私)それがね、残念ながらまだよく分かっていないらしい。しかしCD4値が下がれば日和見感染症になりやすく、危険だよね。

(慎太郎)本当ですね。高齢者にとっては肺炎とか命取りになりかねませんね。

(私)これは今後の研究による改善を期待したいね。

(慎太郎)本当にそうですね。では2番目はどんな問題ですか?

(私)これは具体的に言えば、

●脳梗塞、心筋梗塞などの動脈硬化性疾患

●糖尿病の合併症

●悪性腫瘍(がん)

こうしたHIV陽性者でなくても高齢者に多く見られる病気が、HIV陽性者の場合はHIV感染症との合併症として出て来るってことなんだ。

こうした病気に抗HIV治療が影響している可能性も指摘されている。症状が急速に進行することもあるらしい。

(慎太郎)そうなんですか。

(私)そこでこの2番目と関係してくるのが3番目の問題なんだよ。HIV感染症との合併症が進行すれば要介護の状態になることも早めに考えておく必要があるんだ。

(慎太郎)そうでしょうね。

(私)ところが、HIV陽性者の介護には家族や親族、地域の偏見があったり、本来受け入れるべき施設にも偏見があったりする。

特に施設の数が少ない地方においてはHIV陽性者が介護施設に入所するのは非常に難しいそうだ。

(慎太郎)う~ん、そうなんですか。

(私)そうした家族や周囲の偏見に対して患者本人がうつ病の症状を発症し、抗HIV薬をちゃんと飲めなくなるリスクもあるんだよ。

(慎太郎)それは大変ですね。抗HIV薬は決められた量を決められた時間に飲まないと効き目がありませんよね。

(私)そうだね。だから特に高齢のHIV陽性者に対しては家族はむろん、社会的な支援を早めに準備することが大事なんだ。

(慎太郎)ARTって抗HIV療法が始まってまだ20年ですから、長期に及ぶ副作用や高齢者にみられる合併症への影響などは、これから研究が進むんでしょうね。

(私)そうだと思うよ。厚生労働省エイズ動向委員会の発表によれば、平成27年(2015年)末時点で、日本国内にはエイズ感染者が累計で25,995件報告されている。

これからHIV陽性者の高齢化問題は避けて通れない解決すべき問題だと思うよ。

(慎太郎)本当にそうですね。

(私)今回はHIV陽性者の高齢化問題がどんなものか、概要を話した。慎太郎がもっと詳しく知りたければエイズ予防財団の「エイズ相談マニュアル」を検索して読んでごらん。

(慎太郎)はい、分かりました。おじさんどうもありがとうございました。

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