今回はウイルス学的セットポイントについて説明したいと思います。

HIVに感染した後、体内では増殖しようとするウイルスとこれを退治しようとする免疫細胞が壮絶な闘いを繰りひろげます。何も自覚症状の出ない無症候期にもこの闘いは続いています。

そして何も治療せず放置していると数年の後にエイズを発症します。このエイズ発症までの潜伏期間は患者それぞれで個人差があるのですが、潜伏期間に大きくかかわっているのが今回説明するウイルス学的セットポイントです。

私が調べたことを甥っ子の陽介に説明しますので、あなたもいっしょに聞いて下さい。そしてあなたのHIV検査にお役立て下さい。

 

(甥っ子陽介)おじさんウイルス学的セットポイントって何ですか?どんな意味があるんですか? (私)陽介、それは体内のHIVの量が見かけ上安定した状態のことだよ。
陽介 私

(陽介)HIVの量が見かけ上安定した状態?どういうことですか?

(私)前に、『HIV RNA量ってなに?』と言う話をしたことがあったね。覚えてるかい?

(陽介)はい。HIVに感染した後、体内のウイルス量が増えたり減ったり、どんなふうに変わるのか教えてもらいました。

(私)そうだったね。簡単に言うと、HIVに感染すると2週間から6週間くらい後にウイルス量が急増し、そこからウイルスはいったん減っていく。これは体内にHIV抗体が出来てHIVを攻撃するからだね。

(陽介)はい。

(私)その後、体内では増えようとするウイルスと、これを阻止しようとする免疫細胞、CD4陽性Tリンパ球との闘いが続くんだったね。

(陽介)はいそうでした。この闘いは何年も続き、最後にはHIVが勝ってCD4リンパ球は減っていき免疫不全となります。そして日和見感染症によってエイズを発症することになります。

(私)うん、そうだ。そのエイズを発症する前、つまり無症候の時期は見かけ上ウイルス量が安定している。この増えもしない、減りもしない状態をウイルス学的セットポイントと言うんだよ。この図を見てごらん。

ウイルス学的セットポイント

(陽介)なるほど。HIV感染後の無症候期ですね。ウイルス量がずっと横ばい状態になっていることをウイルス学的セットポイントと言う訳ですね。

(私)そうだね。ただウイルス量が増えてないからといって、感染したウイルスが増えもせずじっとしてる訳じゃない。国立感染症研究所のホームページによると、HIVは体内で何と1日当たり10億個から100億個のスピードで増殖するそうだ。

(陽介)はい?10億個?100億個?おじさん、それ単位を間違ってませんか?だってさっきの図ではウイルス量は横ばいですよ。1日に100億個も増殖してたらもっと右上がりのグラフになるでしょう?

(私)いや、確かにHIVは1日当たり10億個から100億個も増えてるんだよ。ただし、産生されてるのはHIVだけじゃなく、免疫細胞であるCD4リンパ球もまた産生されている。CD4リンパ球は免疫細胞の中枢であり、HIVの標的になっている。

(陽介)そうでしたね。HIVが感染してリンパ球の中で増殖し、感染したリンパ球を破壊するんですよね。つまりHIVが増えるってことはCD4リンパ球が破壊されて減少していくってことですよね。

(私)その通り。しかしHIVの増殖に応戦する形でCD4リンパ球もまた産生され、ウイルスを退治しようとするんだ。だからHIV、CD4リンパ球、両者が拮抗した状態がウイルス学的セットポイントなんだよ。

(陽介)ふ~ん、見かけはウイルスが増えてない静かな大人しい状態に見えますけどね。実際はHIVとCD4リンパ球の壮絶な闘いが毎日繰り広げられている訳ですね。

(私)そうなんだよ。そして残念ながらこの拮抗した闘いは徐々にHIVが優勢となり、ついにはCD4リンパ球が危険水域まで減少し、日和見感染症を起こしてしまう。これがエイズ発症だね。

(陽介)それでおじさん、このセットポイントの値ってどのくらいなんですか?

(私)それは個人差があってまちまちなんだよ。ただ、私が調べたところ、このセットポイントの値がエイズ発症に大きく影響してるんだ。

(陽介)エイズ発症に?

(私)そうだよ。セットポイントの値が高いほどエイズ発症のリスクが高い。まぁ、これは考えてみるとセットポイントが高いってことはそれだけウイルス量が多いってことだから何となく分かるような気がするね。

(陽介)なるほど。それでHIV感染者は定期的にこのウイルス量とCD4リンパ球の量を測定する訳ですね。

(私)そうだよ。ウイルス量が増える、CD4が減る、ここをしっかり把握しておかないとね。私が調べたところ、CD4が350を切ると危険水域だね。抗HIV薬が投与される。そして最近ではもっと早い段階での投与も推奨されている。

(陽介)その方がエイズ発症のリスクが少なくて済む訳ですね。

(私)その通りだよ。ただ、そうした治療を行うには当然だけどHIV検査によって感染していることが分かっていないと出来ない。

(陽介)そりゃそうですね。でもおじさん、日本では新規のHIV感染者として報告された人の30%以上がすでにエイズを発症しているんですよね?

(私)そうだ。前に『いきなりエイズとは?』で教えたね。だから早期のHIV検査は救命的検査と呼ばれるんだ。それではウイルス学的セットポイントはもう分かったかな?

(陽介)はい、おじさん。どうもありがとうございました。

(私)それじゃ今回はここまで。

■関連記事:この記事を読んだ人はこんな記事も読んでいます。

『エイズの潜伏期間はどのくらい?』

『HIVに感染するとなぜ免疫不全になる?』

■発疹、発熱、頭痛、下痢・・・でも検査は怖い。
そんな私がHIV検査を決心できた3つの理由

■誰にも知られず、いつでもあなたの都合のいい時に!
自宅で保健所や病院と同じ信頼性のHIV検査