HIV検査は日本全国どこの保健所でも無料・匿名で受けることができます。では、保健所によるHIV検査はいったいいつ頃から始まったのでしょうか。また、どんな経緯があったのでしょうか。
私が調べたことを甥っ子の陽介に話しますので、ぜひあなたもごいっしょに聞いてください。
(甥っ子陽介)おじさん、保健所のHIV検査っていつ頃から始まったんですか? | (私)陽介、それはね1987年だよ。でも今とはずい分様子が違ってた。 |
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(陽介)そうなんですか。今とは様子が違うって、どうちがうんですか?
(私)うん、最初はね保健所のHIV検査は有料だったんだ。
(陽介)えー!保健所でHIV検査してもらうのにお金を払ってたんですか?
(私)そうなんだ。保険所のHIV検査が今みたいに無料になるのは1993年の4月からなんだよ。
(陽介)そうなんですか。いったい、いくらお金を払っていたんですか?
(私)残念ながらそこまではおじさんも知らない。もう20年も前のことだからネット上で記録を探しても見つからなかったよ。たぶん数千円とか、そのくらいだろうね。
(陽介)ふーん、そうですか。それじゃたぶん、今みたいに匿名検査でもなかったんでしょうね。
(私)いや、それがどうも匿名検査でスタートしたらしい。おじさんが調べた限りでは初めから匿名だった。ただ、保健所でHIV検査が始まった1987年に国会に「エイズ予防法」という法律が提出され、2年後の1989年に施行されている。⇒補足資料①
(陽介)その「エイズ予防法」と保健所のHIV検査が何か関係あるんですか?
(私)「エイズ予防法」はHIV感染者の人権を無視して社会の安全を守ろうとする悪法だと指摘されている。場合によってはHIV感染者の氏名や住所などの個人情報が強制的に知られてしまう法律だった。だから保健所で匿名検査といっても、場合によっては本人の意思に反した結果にもなってたんだね。
(陽介)ふーん、そうなんですか。その「エイズ予防法」は今でもあるんですか?
(私)いや、さすがに悪法との指摘がずいぶんあって、HIV感染者、エイズ患者の基本的人権保護の観点から法改正が行われ、1999年に廃止となったんだ。その代わりの法律が現在も施行されている「新感染法」と呼ばれる法律だよ。⇒補足資料②
(陽介)分かりました。それでHIV検査が保健所で始まった後の経過はどうなったんでしょうか。
(私)保健所でHIV検査が始まったのが1987年。その前年の86年、翌87年と「エイズパニック」が発生している。⇒『エイズパニックとは?』
このとき自分もHIVに感染したのではないかと不安になった人が大勢保健所に駆け込んだらしいよ。当時はHIV感染が大きな社会問題として注目され世の中の関心も高かった。
だから保健所でHIV検査を受ける人はどんどん増えていったんだ。ちょっとこのグラフを見てごらん。
厚生労働省エイズ動向委員会のホームページで公開されている保健所でのHIV検査受検数と、新規HIV感染者を表したものだよ。(新規HIV感染者は新規エイズ患者を含まず・保健所以外で報告された件数を含む)
(陽介)なるほど。保健所でのHIV検査が始まって、しばらくすると急激にHIV検査を受ける人が増えたんですね。
(私)そうだね。保健所でのHIV検査が始まって6年目の1992年には13万5000人以上が保健所でHIV検査を受けている。
(陽介)でも、それから段々と受検数が減っていますね。
(私)そうなんだ。世間のエイズに対する関心が低くなって、HIV検査を受ける人が減っていった。それで2003年に即日検査の導入を開始したんだ。
(陽介)あ~、即日検査って1時間くらいで検査結果が分かるやつですよね。
(私)そうだよ。それまでの通常検査では採血した後、1週間から2週間くらい後にまた保健所に行かなくてはならなかった。それってずい分と利便性が悪いよね。
(陽介)そうですよね。保健所って平日しか開いてないし、夜もやってませんもんね。仕事や学校があるとどうしても利用しいにくいです。
(私)確かにその通りだね。それで保健所では即日検査の導入の他にも土日にHIV検査が無料・匿名で可能な特設検査所を開設したんだ。現在でもまだ数は25ヶ所と少ないけど、これからもっと増えるといいね。
(陽介)それでおじさん、保健所で見つかるHIV陽性者って、全体の中ではどのくらいの割合なんですか?
(私)うん、2000年以前は全体の20%程度に過ぎなかったけど、現在では約50%くらいまで比率が上がっている。つまり、日本では新規に報告されたHIV感染者の二人に一人は保健所で報告されているってことだ。
(陽介)なるほど。保健所の果たす役割は大きいですね。
(私)そうだね。でも、さっきのグラフを見ても分かる通り、2008年をピークにHIV検査の受検数は減少したまま回復していない。更に保健所のHIV検査が利用されるようにしたいところだね。
(陽介)どうすればもっと利用者が増えるんですか?
(私)おじさんが思うには、利便性の改善が必要だと思うよ。例えば、今でも通常検査しか実施していない、即日検査のない保健所が全体の34.6%もあるんだ。⇒補足資料③
(陽介)そうなんですか。それはぜひ即日検査にして欲しいですね。
(私)それから、世間体が気になって保健所には行きづらいと感じている人も多い。保健所の中で人目につかずに検査を受けられるような配慮があるといいかも知れないね。
(陽介)それって、保健所によってずいぶんと雰囲気に差があるんでしょうね。
(私)確かにそうだね。それに人口の多い大都会の保健所と地方の小さな保健所でも差があると思うよ。
(陽介)でも、HIV検査を受けるのに世間体が気になったり、人目が気になるって、それはやはりHIVやエイズに対する偏見や差別があるってことじゃないですか?
(私)それも言えてる。HIV検査を受けようとする本人が必要以上に気にし過ぎている部分もあるだろうし、周囲が実際にそういう目で見ている部分もあるかも知れないね。
(陽介)そんな利便性と匿名性の課題もあって、保健所ではなく自宅でHIV検査キットを使う人も多くなっているんですね。
(私)それは間違いなく言える。年間の利用数が6万5000個を超えているから決して無視できない数字だと思うよ。⇒補足資料④
(陽介)それでおじさん、これからの保健所HIV検査はどうなるんでしょうか?
(私)厚生労働省のホームページを見ても、保健所HIV検査の果たす役割は大きいと認識している。だからさっきも言ったけど即日検査を増やしたり、特設検査場を増やす取り組みを進めているよ。それに検査技術も上がって第三世代から第四世代に切り替わっている。
(陽介)なるほどです。そんな取り組みで保健所HIV検査の利用者が増えるといいですね。
(私)そうだね。個人の健康上も大事だし、私たちが暮らす社会全体のHIV感染拡大防止でも重要だね。
(陽介)本当にそうですね。よく分かりました。
(私)では、今日のお話はこれまで。
【保健所HIV検査の歴史】
●1981年 アメリカでエイズ患者が報告される。
●1985年 初めて日本人のエイズ患者が見つかる。
●1986年 長野県松本市でエイズパニック発生。
●1987年 保健所でHIV検査が開始される。(HIV-1)神戸でエイズパニック発生。
●1993年 保健所のHIV検査が無料化となる。HIV-2の検査も追加となる。
●2003年 即日検査の導入始まる。
●2008年 受検数が14万6000人を超え、ピークとなる。
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補足資料
③通常検査と即日検査の比率
④HIV検査キットの利用数