HIVに感染したかも知れない行為の直後に、HIV感染の予防目的で抗HIV薬を投与することは可能でしょうか?また、実際の予防効果はあるのでしょうか?

今回はある読者から頂いたメールを元にこのテーマについて考えたみたいと思います。今回はいつもの甥っ子との対話形式ではなく、あなたに直接お話します。

*タイ在住の男性からのメール

私の手元にタイ在住の男性から1通のメールを頂きました。仮にお名前をSさんとします。

SさんはタイでHIV感染の可能性がある行為を持ち、不安になってネット検索している中で私のサイトをご覧頂いたそうです。

Sさんご本人の了解を得ましたので、ここにそのメールを原文のままご紹介したいと思います。メールにはHIV感染の予防的処置としての抗HIV薬投与の体験が書かれていました。

メールここから。

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こんにちは。この度危険行為をしてしまい、こちらのサイトに大変お世話になりました。

私が行った対処で、日本国内で使えるかわからないのですが、事後の予防内服ができたのでその経験をシェアできたらと思いメールを送っています。

当方、タイ在住です。危険行為のあとふと、医療従事者の針刺し事故後は予防内服ができるはずだということを思い出しました(日本で医療関係の仕事をしていました)。

そこでそれについて扱っている日本のお医者様のサイトを調べ連絡を取ったところ、運良くタイでのNPO活動もされているお医者様でした。

事情を話すと、タイでは大きな病院であればHIV暴露後予防(Post-Exposure Prophylaxis=PEP)が処方できる、36時間以内が目安で、72時間以内であれば適応であるとのご返答をいただきました。

早速病院に行くとものすごい速さで対応をしてくれ、1ヶ月分の内服役薬の処方とひとまずの検査(HIV、梅毒、B型肝炎)を行ってくれ、検査はすべて陰性でした。6週間してからまた検査をするように指導をいただきました。尚、PEPの効果は89%と先生は仰っていました。

私は、

●相手が陽性かどうか分からないが、男性同士のセックスワーカーの過去を告白された。

●それ以降彼と音信不通で彼の感染状況が確認出来ない。

●コンドームは適正使用でき、破損はなかった。

という状態です。

実際のところ72時間を少し過ぎていたのですが先生も処方してくださいましたので、出来ることはすべてやったかな、と思っています。

今咽頭炎や1日限りの発熱が出て非常に辛いのですが、おそらく大丈夫だろうと信じています。まさに、人事を尽くして天命を待つ、です……

重ねますが、日本でこの方法が通用するかは分かりません。というか、しない可能性の方が高いような気もします。

しかし、ご存知の日本人のお医者様は確実にいて、HIV蔓延国であるタイでは外国人の私でも適切な処置が受けられました。

知っておいて損になる情報ではないかと思いますので、よろしければシェアしてください。

《処方薬》

●EDURANT 25mg 1錠/日×30日

●Truvada 300+200mg 1錠/24時間×30日

上記のように記載がありますが、同時内服で良いとのことでした。検査と1ヶ月分の内服薬で費用はちょうど30000円でした。大きい病院でしたので日本語通訳もつきました。

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メールここまで。以上原文のままです。

さて、Sさんがタイで受けた予防処置を日本国内であなたが同じように受けることは可能でしょうか?

またその効果のほどはどんなものでしょうか。

 

*抗HIV薬の予防的投与

HIV感染の予防としての抗HIV薬投与と言えば、すぐに思いつくのは針刺し事故です。

医療の現場でHIV陽性者の血液や、HIV陽性が強く疑われる血液に暴露した場合、HIV感染予防として抗HIV薬を投与します。

こうした針刺し事故が起きた場合の対処については各病院でマニュアル化され、普段から教育や訓練が行われています。

むろん、HIVに限らずウイルス性肝炎やその他の感染症も同様です。

では、HIVの針刺し事故の場合、直後の抗HIV薬投与で感染を防ぐ効果があるのでしょうか?むろん、あります。

針刺し事故発生時の対応については様々な医療サイトで公開しています。

例えば、「エイズ治療・研究開発センター(ACC)」のホームページにも詳しく公開されています。

薬の投与だけでなく、まずは暴露部位を大量の流水と石鹸で洗浄するとされています。そして抗HIV薬の服用です。

こうした処置によって、事故によるHIV感染をほぼゼロにすることが可能だとハッキリ書かれています。

だとすれば、今回メールを送って頂いたタイ在住の男性が受けた予防処置も同じ様に効果があると考えられます。

では、日本国内でタイと同じ様な予防目的の抗HIV薬投与は可能でしょうか。私が調べた限りでは不可です。

実はこの件に関しては谷口恭と言う医師がとても詳しくご自身のブログで書かれています。(谷口医師はエイズ対策で大変ご活躍されています。)

谷口医師のブログはこちらです。

■緊急避妊と抗HIV薬予防投与

同ブログによると、日本ではHIV陽性の可能性があるレイプなどの場合を除いては針刺し事故と同じ処置を予防目的では出来ないと書かれています。

詳しくはブログ記事をお読み頂くとして、出来ない理由を次のように説明されています。

●HIV以外の感染症に対してはどのように考えているのか?

●性交渉の後どうやって速やかに抗HIV薬を入手するのか?

●100%の確率で感染予防できるわけではないことが理解できているのか?

●コストのことは考えているのか?

などといった問題があるからだとしています。なるほど、って感じですね。

私も出来る範囲で色んな医療サイトを調べてみましたが、HIV感染の予防目的で薬を投与可能とする病院は見つかりませんでした。

さて、今回はタイ在住のSさんから頂いた1通のメールから、HIV感染を予防するための抗HIV薬投与を取り上げてみました。

もしもあなたがタイ在住なら、Sさんと同様のHIV感染予防処理を受けることも可能です。

しかし、タイでは可能な抗HIV薬投与も日本国内では針刺し事故以外では不可のようです。

ならばあなたご自身で可能な予防法を実行するしか方法はありません。

そして少しでも不安があれば早期のHIV検査を受けて確かめることです。

なお、今回貴重な情報をメールで送って頂いたSさん、どうもありがとうございました。この場を借りてお礼申し上げます。

矢印『怪しい症状連発!その時あなたはどうするべきか?』

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