HIV感染者の実数は、厚生労働省の発表より10倍も多いとする記事を目にします。その根拠は、HIV検査を受けない感染者が多数いるはずだから、というものです。
さて、本当にHIV感染者は公表されている数の10倍もいるのでしょうか?私が調べたことを甥っ子の陽介に話します。ぜひあなたも最後までごいっしょに!
(甥っ子陽介)おじさん、HIV感染者って本当は10倍も多いってホントですか? | (私)陽介、その10倍って何の根拠だろうね?データに基づいた数字かな? |
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(陽介)うーん、そう言われると困ります。僕もネットのエイズ関連サイトで見ただけですから。どこから10倍という数字が出てきたのか分かりません。
(私)確かにHIV感染症は自覚症状がないことが多い。だから自分から進んでHIV検査を受ける人は少ない。よほど心配になったり不安になった人だけが保健所や病院で検査を受けると思われている。
(陽介)確かにそうですよね。だから検査を受けない大勢の中にHIV感染者がもっといるはずだ、という考え方ですよね。
(私)ふーむ、陽介はこの考えは正しいと思うかい?
(陽介)はい。だって、HIV検査を受ける人はほんの一握りの人に過ぎないと思います。HIV検査を受けない多くの感染者がいると思います。まぁ、それが公表の10倍なのか、8倍なのか、あるいは5倍なのかは分かりませんけど。
(私)なるほど。
(陽介)おじさんはどう思いますか?実際にはもっと多くのHIV感染者がいると思いませんか?
(私)そうだね。確かに公表されている件数より実際の感染者数が多いのは間違いないね。何しろHIV感染症はHIV検査を受けるしか判定方法がない。HIV感染者の全てがHIV検査を受けているはずがないから、潜在的なHIV感染者がいるはずだ。
(陽介)ただ、それが厚生労働省の発表した件数の10倍かと言われると、僕もどうかなとは思います。ハッキリしたデータがないと思うんです。
(私)確かにね。ただ、おじさんはこう思うね。HIVに感染していても検査を受けなければ分からない。それは事実だ。でも、HIV感染者がエイズを発症するとこれは絶対に分かる。そうだろう?
(陽介)あ、それはそうですね。HIVに感染してからの潜伏期間に個人差はあっても、やがてエイズを発症すればその時点で必ず病院に行くはずだから、そこで分かりますね。
(私)そうなんだよ。確かに表に出ない潜在的なHIV感染者はいるだろう。しかし、エイズを発症した時点で潜在的ではなく表に出てくる。だとしたら、どんなことが起きる?例えば潜在的なHIV感染者が公表数の10倍もいたとしたら?
(陽介)えーっと、そのうち次々とエイズを発症することになります。
(私)そうだよね。公表されているHIV感染者の10倍も潜在的感染者がいたとしたら、そのうち公表されるHIV感染者よりもエイズ患者の方が多くなっていくはずだ。
(陽介)なるほど。潜在的HIV感染者は抗HIV治療を受けないから、そのうちエイズを発症しますからね。
(私)そうだ。わずかな例外を除けばほぼ100%エイズを発症する。いつまでも潜在的ではいられない。むろん、自然治癒することもない。
(陽介)でもおじさん、以前教えてもらった、 『最新のエイズ動向は?』 によるとエイズ患者よりHIV感染者の方が多いですね。
(私)そうなんだよ。もしも潜在的HIV感染者がこのグラフの10倍もいたとしたら、エイズ患者の件数はこんなもんじゃないはずだ。どこかでHIV感染者を軽く上回るはずだね。
(陽介)なるほど・・・。ということは、実際にはそれほど潜在的HIV感染者は多くないってことですか。
(私)少なくとも10倍なんてあり得ないと思うよ。ここにもうひとつデータがある。厚生労働省エイズ動向委員会から発表された献血で見つかったHIV陽性件数だ。
(陽介)あ~、つい先日も大きな問題となった献血で見つかったHIV陽性ですね。
(私)この前に問題となったのは初めからHIV検査代わりに献血を使ったからだね。そうじゃなくて、普通に献血を受けた人の中にもHIV陽性者はいる。自分で気づいていないだけだ。
(陽介)それは確かにそんな人もいるでしょうね。
(私)1年間の献血件数は約530万件だ。
(陽介)その中でHIV陽性は何件くらい見つかっているんですか?
(私)多い年で100件を超えている。ここ数年はやや減少気味だね。このグラフを見てごらん。
(陽介)えーっと・・・新規のHIV感染者数と、新規エイズ患者数と、献血10万件当たりのHIV陽性件数ですね。
(私)そうだ。まず、青色の折れ線グラフが献血10万件当たりのHIV陽性件数だ。2008年までは完全にHIV感染者数と比例している。ここ3、4年は減少傾向だけどね。
(陽介)なるほど。献血10万件に対してHIV陽性は1.5件から2件くらい見つかっている訳ですね。
(私)もしも潜在的HIV感染者が、公表された件数の10倍も多かったら、献血で見つかるHIV陽性はもっと増加しているはずだ。何しろ年間に530万件もの献血件数は潜在的なHIV感染者の数と相関関係にあるはずだからね。
(陽介)そうですね。
(私)そして、赤い棒グラフが新規エイズ患者の件数だ。確かに年々増加傾向にはあるけど、2倍とか3倍みたいな爆発的な増加傾向にはない。
(陽介)なるほど。先ほどのおじさんの説明のように、もしも潜在的HIV感染者が10倍もいたらエイズ患者はもっと増加しているはずですね。
(私)その通り。何しろ潜在的HIV感染者は治療を受けないのだからほぼ100%エイズを発症する。だからこのグラフにも出てくるはずなんだ。
(陽介)てことは、思ったよりも潜在的HIV感染者は多くないってことですか?
(私)うん。おじさんはそう思うね。以前陽介に教えた通り、今の医学ではHIV検査で感染が分かっていればエイズ発症を防ぐことが出来る。だから新規エイズ患者として報告されるのはほとんどが潜在的HIV感染者からの発症なんだ。
(陽介)そうですよね。なるほど、分かりました。
(私)厚生労働省エイズ動向委員会の岩本委員長も、「これらのデータから見る限りHIV感染者は増加傾向から横ばい状態になったと考えられる。少なくとも増加していることを示すデータはない。」とコメントしてる。
(陽介)そうなんですね。それじゃ、潜在的HIV感染者が公表数の10倍もいるとは思えないってことですよね。
(私)そうだ。少なくとも10倍もいるなんて科学的根拠は何もない。
(陽介)よく分かりました。
(私)ただ、そうは言ってもエイズを発症するまで自分のHIV感染に気が付かない人が大勢いることは事実だ。これまでも何度か言ってきたけど、日本ではHIVに感染したと報告された人の30%以上がすでにエイズを発症している。
(陽介)そうでしたね。早期にHIV感染が分かっていればエイズ発症を防げたかも知れないですよね。
(私)だから10倍とは言わないまでも潜在的なHIV感染者がいることは事実だね。もっとHIV検査に目を向けて欲しいね。
(陽介)そうですね。いつもおじさんが言ってる、
「早期のHIV検査は救命的検査」
ってことですね。
(私)その通り。それに尽きるね。今回のお話はこれでお終いだよ。
(陽介)おじさん、ありがとうございました。
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