当サイトでも度々取り上げてきた、
「中高年(50歳以上)にエイズ患者が多い理由」
について、再度取り上げてみたいと思います。
私の調べたことを甥っ子の慎太郎に話しますので、あなたもいっしょに聞いて下さい。
【今回のテーマと内容】 ・ ●テーマ:50歳以上にエイズ患者が多い理由 ・ 1.ある性感染症サイトの記事から ・ 2.50歳以上のエイズ患者をデータで検証する ・ 3.50歳以上にエイズ患者が多い理由 ・ 4.まとめ |
(甥っ子慎太郎)おじさん、つい最近ネットで気になる記事を見つけたんですが・・・ |
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(私)慎太郎、どんな記事だい? |
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(慎太郎)それがですね、ある性感染症のサイトに載ってた記事なんですけどね、
こんな記事なんですよ。
1.中高年のエイズ発症者が増えている。
2.中高年にエイズ患者が多いのは、20代~30代で感染した人が潜伏期を経て発症するからだ。
3.HIVの感染ルートは、性風俗と同性間の性的接触が多い。
この3つなんですよ。
どうもピンと来なくて、本当なのかなって・・・。
それでおじさんに聞いてみようと思いました。
(私)ほほ~、そうか。それじゃ1つずつ、みて行こうか。
まず、「中高年のエイズ発症者が増えている。」だね。
これが本当かどうか、データを調べればすぐに分かる。
慎太郎が見た記事にはデータが載ってなかったのかい?
(慎太郎)はい、載っていませんでした。ただそう書いてあるだけなんです。
(私)そうか。「増えている」と言うのは相対的な評価の話だから、いつの、どの値に対して、どれだけ増えたのかを示さないと意味ないね。
ただ「増えている」じゃ単なる感想に過ぎないと思うよ。
(慎太郎)そうですね。
(私)その記事で言ってる中高年が何歳を指しているのか分からないけど、試しに50歳以上のデータを見てみようか。
エイズ動向委員会のデータを私がグラフ化したものがある。
新規HIV感染者と、新規エイズ患者の過去15年間の推移をグラフにしてみた。
●新規HIV感染者の推移
グラフ1.新規HIV感染者の推移
●新規エイズ患者の推移
グラフ2.新規エイズ患者の推移
さぁ、この2つのグラフを見てどうだい?
中高年のエイズ患者は増えているかい?
(慎太郎)う~ん、10年以上前と比べると確かに増えていると言えるかも知れませんが、少なくともこの10年で見ると増えているとは言えないですね。
(私)確かにそうだよね。
「中高年のエイズ患者が増えている」とは言えないと思うね。
こうしてデータを見ると正確に判断できるね。
(慎太郎)それじゃ次の2番目お願いします。
(私)えっと、2番目は・・・
「中高年にエイズ患者が多いのは、20代~30代で感染した人が潜伏期を経て発症するからだ。」
だったね。
まず、年代別のHIV感染者とエイズ患者の分布を見てみよう。
エイズ動向委員会の2016年速報値からグラフ化したデータがあるよ。
●新規HIV感染者年代別分布
グラフ3.HIV年代別分布
このグラフを見ると、確かに20代、30代のHIV感染者は多いね。
●新規エイズ患者年代別分布
グラフ4.エイズ年代別分布
エイズ患者の方は40代がピークで50歳以上にも全体の約3割が分布している。
ただ、ここで注意して欲しいのは、「HIV感染者」として報告された件数は全てHIV検査で陽性判定を受けたものだ。
当然、検査後にエイズ専門病院で治療を受けている。
そしてほとんどのHIV感染者は抗HIV治療によってエイズ発症を未然に防いでるはずだ。
つまり、検査でHIV感染が見つかった人が何年か後にエイズを発症している訳じゃない。
グラフ3とグラフ4は直接的には相関関係にないんだよ。
(慎太郎)なるほど。エイズ患者というのは、HIV感染に気付かず、エイズを発症してしまった人たちなんですね。
(私)そう、いわゆる「いきなりエイズ」ってやつだね。
(慎太郎)それじゃ、グラフ3には出てこない、潜在的HIV感染者の中からエイズを発症した人がグラフ4になっている、ってことですね。
(私)その通り。だからグラフ4のエイズ患者がいったい何歳の時にHIVに感染したのか、それは分からないだろうなぁ。
(慎太郎)でも、一般的には5年~10年くらいの潜伏期間なんでしょう?
(私)そう、2000年以前はそうだった。HIVに感染してもエイズ発症を防ぐ方法がなかったから、潜伏期間が把握出来た。
でも、1997年くらいからARTと呼ばれる治療法が普及してHIVに感染してもエイズを発症しなくて済むようになった。
エイズを発症しないんだから潜伏期間も正確には分からないんじゃないかな。
少なくともART以前のようには正確に分からないと思うよ。
(慎太郎)でもおじさん、以前にエイズ発症までの潜伏期間が3年以内の例が増えているって、教えてくれましたね。
(私)そうだったね。それは「エイズ治療・研究開発センター」のネット情報や書籍にそう書かれている。
あるいは厚生労働省の「抗HIV治療ガイドライン」にも同じことが書かれている。
(慎太郎)まぁ、いずれにしてもHIVに感染してからエイズ発症までには数年間の潜伏期間があるってことですよね。
(私)そうだね。でも、中高年のエイズ患者に関しては、もっと大きな問題があるよ。以前に何度も話したよね?
(慎太郎)はい、覚えています!
50歳以上では「いきなりエイズ」の発症率が50%近くあって、つまりはHIV検査を受ける人の割合が少ないんですよね。
(私)その通り。ここ数年、HIV感染者全体としては「いきなりエイズ」は約30%の割合なのに、50歳以上だと50%に達している。
グラフ5.いきなりエイズの推移
このグラフが示している事実は、
『50歳以上のHIV感染者は、他の世代に比べてHIV検査を受けていない。』
と言うことだね。
何度も言うけど、HIVに感染しても検査で見つかればエイズ発症を抑えることが出来るからね。
(慎太郎)分かりました。それではおじさん、最後の3番なんですけど。
(私)えーっと、
「HIVの感染ルートは、性風俗と同性間の性的接触が多い。」
これかぁ。
残念ながら、感染ルートの分析データで、「性風俗」と言うルートは見たことがない。
そんな調査をやってるデータはないと思うよ。
現在、全国の医療機関で使用されているHIV感染・エイズの届け出用紙には、感染ルートの記入欄もある。
でも、そこにある感染ルートの分類は、
1) 性行為感染
ア.異性間性的接触 イ.同性間性的接触
2) 静注薬物使用
3) 母子感染
4) 輸血
5) その他( )
6) 不明
となっていて、性風俗かどうかを調べる項目はないんだ。
(慎太郎)なるほど・・・
(私)そしてこの調査結果によって同性間の性的接触による感染ルートが最大感染ルートであることはハッキリしている。
前に『同性愛者のHIV感染は爆発的か?』って話でもデータを見せたよね。
でも、何度も言うけど性風俗がどのくらい占めているのかは不明だ。
(慎太郎)なるほど。性風俗による感染者がどのくらい存在するかを調べたデータはないんですね。
(私)少なくとも、エイズ動向委員会のように全数調査を行ったデータはないと思うよ。
私が以前読んだ本で、「性感染症 STD」田中正利編集(南山堂)には次のように書かれている。
『CSWはHIV感染のハイリスクグループだが、HIVの陽性率は非CSWグループと同程度である。』
CSWとは、
Commercial Sex Workers(性風俗従事者)の略だ。
(慎太郎)へぇ~そうなんですか。
(私)ただし、同書にはその根拠となるデータは示されていなかった。そこが残念。
(慎太郎)でも、性風俗のデータはないのだと分かったからいいです。
(私)それじゃ慎太郎の3つの疑問、全て解決したかな?
(慎太郎)はい、解決しました。
1.中高年のエイズ発症者が増えている。
⇒データから見る限り、この10年では増えていない。
2.中高年にエイズ患者が多いのは、20代~30代で感染した人が潜伏期を経て発症するからだ。
⇒この指摘はデータの裏付けがない。
⇒50代以上で言えば、HIV検査を受けない人の割合が多いことも要因となっている。
3.HIVの感染ルートは、性風俗と同性間の性的接触が多い。
⇒同性間の性的接触は指摘の通り。ただし性風俗についてはデータが無い。
こんなところですね。
(私)では、今日の話はこの辺で終わりにしよう。
(慎太郎)はい、おじさんありがとうございました。
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