2017年9月中旬。
ネットを中心に大きな話題になったニュースがこちら。
『九州でエイズ急増!』
これです。
あなたもネットで検索してみて下さい。多数ヒットします。
しかし、これ・・・
ホントでしょうか?
私がデータを検証した結果を甥っ子の慎太郎に話します。
あなたもぜひいっしょに聞いて下さい。
【今回のテーマと内容】 ・ ●テーマ:九州でエイズが急増している? ・ 1.2016年、九州ブロックのエイズ動向 ・ 2.梅毒急増、エイズ急増に共通していることは? ・ 3.まとめ ・ |
(甥っ子慎太郎)おじさん、九州でエイズが急増してるって、ホントですか? |
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(私)慎太郎、それはね、半分は当たってるけど、半分は誤解だね。 |
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(慎太郎)え?半分は正しくて、半分は誤解なんですか?
(私)そうだよ。慎太郎が今回の質問をしてるのはネットニュースからだろう?
(慎太郎)そう!よくお分かりで。その通りです。
(私)まぁ、ここ数日、色んなメディアで取り上げてるからね。
私も見て知ってるけど、ざっとこんな記事が並んでる。
●福岡県を中心に、九州でエイズ患者やHIV感染者が増えている。東京や大阪など都市部を含めて全国的には減少か横ばい傾向にあるだけに、九州の増加が目立つ。
●2016年の福岡県のHIV感染者、エイズ患者の新規報告者数は、いずれも46人で計92人と過去最多。15年と比べて61%増えている。
●佐賀県が計9人、熊本県計19人も過去最多となった。
●16年の地域別では九州が計169人で32%増。これに対し、関東・甲信越は695人で4%増と横ばい、近畿は265人で11%減など、5地域は前年より減少していた。
と、まぁこんな記事だね。
(慎太郎)はい。そうなんです。要は全国的に見るとHIV感染者、エイズ患者は横ばい状態か減少傾向なのに、九州だけが増加している、と言う指摘なんですよね。
特に福岡県では過去最多に増えているそうで。
(私)うん、確かにそう記事には書いてるよね。
では、それらの記事が本当かどうか、データから確認してみよう。
厚生労働省エイズ動向委員会の発表した2016年までのエイズ動向を調べてみた。
まず、日本全国のブロック別エイズ動向を見てみよう。
エイズ動向委員会では都道府県別のエイズ動向を調べている。
それで全国を北から南まで7つのブロックに分けている。
この中で九州ブロックのエイズ動向を見てみよう。
このグラフを見てごらん。
図1.ブロック別エイズ動向
これは2012年から2016年までの5年間、新規HIV感染者とエイズ患者の合計件数がどう推移したかを示すグラフだ。
赤い線が九州だけど、これを見てどう思う?
(慎太郎)うーん・・・「九州でエイズが増加中!」と言う表現からすると、ちょっと意外です。
もっと急激に増えているイメージ持ちましたから。
(私)まぁ、確かに他のブロックに比べると増加しているのは間違いないけどね。
この表も参考にして欲しいね。
●全国ブロック別 新規HIV感染者とエイズ患者の合計件数
ブロック | 2012年 | 2013年 | 2014年 | 2015年 | 2016年 |
北海道 東北 |
61 | 60 | 56 | 79 | 76 |
関東 甲信越 |
748 | 794 | 784 | 668 | 694 |
東海 | 171 | 168 | 154 | 162 | 162 |
北陸 | 22 | 18 | 22 | 14 | 9 |
近畿 | 265 | 332 | 288 | 299 | 261 |
中国 四国 |
69 | 86 | 75 | 84 | 70 |
九州 | 113 | 132 | 167 | 128 | 169 |
この表から、2016年を2015年と比較してみると、
●北海道・東北ブロック 96.2%
●関東・甲信越ブロック 103.9%
●東海ブロック 100.0%
●北陸ブロック 64.3%
●近畿ブロック 87.3%
●中国・四国ブロック 83.3%
●九州ブロック 132.0%
●全体 100.5%
と、まぁこんな感じだ。
九州は他のブロックが減少か横ばい、せいぜい4%までの増加なのに比べると断然多いと言えるね。
(慎太郎)はい、そうですね。
(私)では次に九州ブロックの中を詳しく見てみよう。
まずはこのグラフからだ。
●九州ブロック 新規HIV感染者とエイズ患者の合計件数
図2.九州のエイズ動向
このグラフを見てどうだい?
(慎太郎)うわ!福岡県の増え方がすごいですね!
(私)確かに記事にもあった通り、福岡県では過去最多の感染者数となっているね。
こちらも表を見てもらおうかな。
●九州ブロック 新規HIV感染者とエイズ患者の合計件数
県名 | 2012年 | 2013年 | 2014年 | 2015年 | 2016年 |
福岡県 | 60 | 62 | 70 | 57 | 92 |
佐賀県 | 4 | 7 | 5 | 4 | 9 |
長崎県 | 4 | 3 | 10 | 7 | 2 |
熊本県 | 8 | 9 | 11 | 6 | 19 |
大分県 | 7 | 8 | 11 | 3 | 7 |
宮崎県 | 3 | 8 | 13 | 15 | 6 |
鹿児島県 | 8 | 12 | 12 | 9 | 12 |
沖縄県 | 19 | 23 | 35 | 27 | 22 |
ブロック計 | 113 | 132 | 167 | 128 | 169 |
赤字は過去最多の件数だ。福岡、佐賀、熊本だね。
九州ブロック全体で見ると2015年に比べて41件、32%の増加だ。
特に福岡は件数で言えば35件増えて、増加率では61.4%も増えている。
(慎太郎)なるほど。そうすると記事に書いてあった通りなんですね。
(私)ちょっと待ってくれよ。
福岡県は確かに記事に書かれた通り、急増状態と言えるね。
しかし、福岡県を除く九州7県でみると、2015年が71件、2016年が77件、つまり件数では6件増えて8.5%の増加ってことだ。
この程度の増加なら2016年に限った話ではないし、九州ブロックだけに限った話でもない。
(慎太郎)なるほど。つまり急増しているのは福岡県だけであって、九州全体が増えている訳じゃないんですね。
(私)少なくとも九州全体で急増している、とは言えないと思うよ。
熊本、佐賀が過去最多と言っても、
●熊本県 17件⇒19件
●佐賀県 7件⇒9件
とまぁ、こんな感じで、過去最多の記録から2件増えただけなんだよ。
この結果で熊本県も佐賀県もHIV感染者が急増しているとは言えないと思うけどね。
(慎太郎)なーるほど、そういうことですか。
おじさんが最初に言った、半分正解で、半分は誤解って意味が分かりました。
(私)むろん、福岡では確かに急増しているし、お隣の県にも警鐘を鳴らし注意を呼び掛けることは当然だよね。
今後福岡から九州全域にHIV感染者急増のリスクが広がっていく危険性だってあると思うしね。
(慎太郎)それはそうですよね。福岡には九州最大の歓楽街もあるし、人も集まってきますものね。
でも、なぜ福岡でこんなにHIV感染者が急増しているんでしょうか。
(私)問題はそこだよね。いくつかのネットのニュースの中には福岡でHIV感染者が増えた理由にも踏み込んだ記事があったよ。
(慎太郎)へぇ、それは何ですか?
(私)海外からの観光客の増加が要因の1つだって指摘している。
(慎太郎)はぁ・・・。確かに海外からの観光客は増えていると思いますけど、その中にHIV感染者もまた増えているってことですか?
海外からの観光客が日本でHIVを拡散しているってことですか?
(私)私が調べたところ、福岡を訪れる外国人は急増している。
福岡空港、博多港から入国した外国人は、
●2011年 59万人
●2015年 200万人
とまぁ、4年で3.5倍も増えている。
同時期に東京は約2倍の増え方だから、福岡の方がペースとしては多い。
しかも、この10年間で外国人の居住者の伸び率を見ると、福岡市が150%で全国一なんだよ。
だからここ数年、福岡に海外から多くの人が集まって来るようになったのは間違いないね。
(慎太郎)う~ん、だからと言って、それがHIV感染者急増の要因かと言われれば、確たる証拠はないんでしょう?
(私)ないと思うよ。そんな記事、データにはお目にかかったことがない。
ただね、今回の記事と良く似た記事で、
「梅毒感染者が急増」
ってのがあるんだよ。
(慎太郎)梅毒感染者が急増しているんですか?
(私)これを見てごらん。半端ない増え方だよ。
図3.梅毒感染者の推移
HIV感染者がほぼ横ばいなのに比べ、梅毒感染者はこの5年間で5倍にも増えている。
(慎太郎)すごい増え方ですね。これはいったい何が原因なんですか?
(私)そこだよ、問題は。実は先ほどの福岡の話と同じ、海外からの観光客が増えたことが要因の1つだと指摘されている。
これも正確なデータ、根拠はないけどね。
(慎太郎)ふ~ん、そうなんですか。海外からの観光客の増加に伴って梅毒感染者も増えているからそう指摘されるんでしょうね。
(私)そうだと思うよ。でも、それは単なる前後関係だけの話であって、そこに因果関係があるとは限らない。
何も証拠となるようなデータはないからね。
(慎太郎)でも、梅毒は日本中で感染者が急増して、HIVは福岡だけで急増って、それもよく分かりませんね。
(私)うん、分からない。全く分からない。
(慎太郎)そうするとぜひ知りたいのは今年、2017年がどうなるかですね。
(私)そうだね。エイズ動向委員会が発表した2017年の第2四半期までのデータを見ると、
●2017年 1月~6月 福岡県
・新規HIV感染者 27人
・新規エイズ患者 8人
合計 35人
となってる。(いずれも速報値ベース)
半年で35人だから、単純計算だと年間では70人くらいかな。
(慎太郎)2016年が92人ですから、22人の減少ですね。
(私)むろん、まだ半年しか経ってないから年間ベースの感染者数は分からないけどね。
まぁ、今のところ昨年のような急増ペースではないと言えるね。
それでも70人は2014年と並んでこの10年では2番目に多い件数になってしまう。決して少ない件数ではない。
(慎太郎)そうすると、やっぱり数年間にわたってみると、福岡でのHIV感染者は増加傾向にあるんでしょうか?
(私)そうだね、それはあと何年か見てみないと分からないかも知れないね。
ただ、いずれにしても住んでいる土地全体のHIV感染者の動向によって自分の感染予防や検査のタイミング、重要性が変わることがあってはいけないと思うよ。
(慎太郎)それはいつもおじさんが言ってることですね。
(私)その通り。どんなにHIV感染者が少ない県であっても、個人が感染するかどうかは全く別の話だ。
感染予防には注意して、不安を感じたら早めにHIV検査を受ける。これはどこに住んでいても絶対だね。
(慎太郎)分かりました。
(私)それじゃ、今日の話をまとめておこうか。
●福岡県では2016年に新規HIV感染者とエイズ患者の合計が92件報告された。これは前年より61.4%も増えた。
●九州全体でも前年より32%の増加であり、熊本、佐賀でも過去最多となった。
●ただし、福岡以外ではそれほど急激に増えているとは言えない。
●福岡でHIV感染者が増加しているのは海外からの観光客が増えたからだとする指摘もあるが、ハッキリ裏付けるデータはない。
●いずれにしてもHIV感染予防と早期のHIV検査は必要である。
こんなところかな。
(慎太郎)おじさん、ありがとうございました。■当サイトの人気コンテンツはこちら!
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