最近、HIV、エイズ関連サイトで見かけた「エイズのウワサ」が本当かどうか検証してみました。
私の調べたことを甥っ子の陽介に話しますのであなたもいっしょに聞いて下さい。
(甥っ子陽介)おじさん、エイズのウワサを聞いたんですけど、本当でしょうか? |
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(私)陽介、それはいったいどんなウワサだい? |
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(陽介)まぁ、ウワサって言うかネットで見かけた記事なんですけどね。ウワサまで広まっているかどうか知らないんですけど、すごい気になってるんですよ。
(私)ふむふむ、まずどんなウワサか見せてごらん。
(陽介)はい、この4つなんですよ。
①日本ではHIV感染者は急増してる。
②性行為の低年齢化がHIV感染者急増の要因の1つになっている。
③風俗で感染した男性が、若い女性との援助交際や出会い系サイトで知り合った若い女性に感染させている。
④中高年のエイズ患者が急増している。
何となく、そうか、そうかと納得しちゃいそうなんですけど、データ的な裏付けはどうなんだろうって思ったんです。
(私)う~ん、いかにも全部当たってるみたいなイメージはあるけど、陽介の言う通りデータで確認しないとね。
(陽介)はい。ぜひおじさんにデータを見せて欲しいんですよ。
(私)よし分かった。それじゃ1つずつみていこう。
①日本ではHIV感染者は急増してる。
これは本当かな?
(陽介)前におじさんに教えてもらった話では、「急増している」じゃなくて、「横ばい」でしたよね。
(私)そうだったね。厚生労働省エイズ動向委員会から公表されたデータをみて見よう。
図1.HIV・エイズ動向
確かに減少しているとは言えないけど、「急増している」とも言えない。やはり「横ばい」状態に見えるよね。
(陽介)そうですよね。決して「急増している」とは言えないですよね。
(私)まぁ、このデータはHIV検査を受けて見つかった人たちだから、当然検査を受けていない潜在的HIV感染者もいる。それがどのくらいなのか正確には分からないね。
でも、新規エイズ患者が急増している様子がない、あるいは年間500万件ほどの献血で見つかるHIV陽性者が減少傾向にあるなど、潜在的HIV感染者が少なくとも急増はしていないと思われるデータはいくつかあるよね。
(陽介)そうですね。
(私)では、次にいこうか。
②性行為の低年齢化がHIV感染者急増の要因の1つになっている。
これは2つのことを検証する必要があるね。
まず、本当に性行為の低年齢化は進んでいるのか?
HIV感染者においても低年齢化が進んでいるのか?
この2つだ。
(陽介)そうですね。どうなんでしょう?
(私)まず、性行為の低年齢化だ。これって、もう20年くらい前からず~っと言われ続けてるよね。HIVに限らずクラミジアでも梅毒でも性感染症の話には必ず出てくる。
若者の性行為の動向を調べたデータとしては、「性の健康医学財団 若者の性行動の実態と避妊」というサイトに載っている。
あるいは、「青少年の性行動全国調査」にも載っている。
結論から言えば、2005年くらいまでは確かに低年齢化は進んでいた。でも、この10年で見るとそうでもない。まずこれが1つデータから言えること。
次に低年齢層のHIV感染者の動向をみてみよう。10歳~19歳、つまり10代の新規HIV感染者の動向だよ。
図2.10代の新規HIV感染者
グラフを見てもらって一目瞭然、実は10代のHIV感染者は急増などしていない。
だから、「性行為の低年齢化がHIV感染者急増の要因の1つになっている。」とは言えないね。
(陽介)ふ~ん、そうなんですね。
(私)それじゃどんどんいこう。次は3つ目だね。
③風俗で感染した男性が、若い女性との援助交際や出会い系サイトで知り合った若い女性に感染させている。
これは要するに若い女性にHIV感染者が増えているのか?って話だよね。それじゃデータを見てみよう。日本人の15歳から24歳までの女性の新規HIV感染者が増えているのか?
図3.15歳~24歳の女性のHIV感染者
これもグラフを見ればすぐにわかるよね。ほぼ横ばい状態で増えているとは言えない。
(陽介)そうなんですね。データを見るとハッキリわかりますね。
(私)では最後、4番目のウワサを検証してみよう。
④中高年のエイズ患者が急増している。
中高年という定義が何歳からを言ってるのか分からないけど、ここでは50歳以上のHIV感染者をみて見よう。
図4.50歳以上の新規HIV感染者
確かに平成20年(2008年)くらいまでは増加傾向にあった。でも、そこからはほぼ横ばい状態って感じだよね。
ついでに50歳以上のHIV感染者が、HIV感染者全体に占める割合も見ておこう。
図5.50歳以上の新規HIV感染者が全体に占める割合
どうだい?実は50歳以上のHIV感染者って全体の割合からみればずっと変わっていないんだよ。最近になって中高年のHIV感染者が増えているとは言えない。
実数も割合もほぼ横ばい、というのがデータから言えることだね。
(陽介)う~ん、そうなんですかぁ・・。結局、僕が見たウワサの記事は4つともデータからは裏付けされない、むしろ否定される内容ばかりですね。
(私)そうだね。陽介が見たウワサの記事にはその根拠となるデータが示されていたかい?
(陽介)いいえ、実は何も数値データはなかったんですよ。ただ文章が書かれているだけで。
(私)それはダメだよ。何を根拠に意見を展開しているのか、そのバックデータが明示されていないと信ぴょう性が担保されない。もしかしたらただの思い込み、個人的なかってな意見かも知れない。
(陽介)そうですね。4つとも、いかにもありそうな話だったので・・・。正直ちょっと信じちゃいました。
(私)まぁ、いろんなことに関心を持つ、疑問を持つことは大事だけど必ず裏付けを調べないとね。それも信頼に足るだけのしっかりしたデータが必要だよ。
(陽介)はい、分かりました。
(私)それじゃ今回はこのあたりでお終いにしよう。
(陽介)おじさん、ありがとうございました。
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補足資料
①献血件数とHIV陽性件数
姉妹サイト「HIV検査完全ガイド」よりデータ引用。
2008年をピークに、献血で見つかるHIV陽性件数は減少傾向にある。
若い世代に限らず女性のHIV感染者が増えているとの指摘もあります。それはデータ的に本当でしょうか?
年齢を20歳~29歳で区切るとまた違うデータが見えてきます。
中高年がHIV感染、エイズ発症について要注意なことは間違いありません。こんなデータがそれを裏付けしています。