HIV検査に関する数値の疑問を取り上げます。検査数の実態、HIV陽性件数の実態、感染ルートの実態、この3件について調べてみました。

その結果を甥っ子の陽介に話します。あなたもいっしょに聞いて下さい。

(甥っ子陽介)おじさん、HIV検査に関する数値で疑問があるんですけど・・・ (私)陽介、それはどんな数値だい?おじさんに話してごらん。説明してあげよう。
陽介 私

(陽介)はい。実はあるネット上の相談サイトで見かけた書き込みが気になってまして・・・。

(私)ほほう。どんな書き込みだい?

(陽介)それがですね、HIV検査の件数、HIV陽性者の件数、感染ルートの件数、この3つの数値についてなんですよ。

(私)もっと詳しく話してごらん。

(陽介)はい。それじゃ1つずついきますね。まず、HIV検査の件数なんですけど。前にもおじさんに教えてもらったHIV検査の件数って、あれは保健所での件数ですよね?

(私)そうだよ。厚生労働省エイズ動向委員会が公表しているHIV検査の件数は保健所、及び自治体が行うその他の無料、匿名検査の合計だ。

(陽介)だとすると、病院で検査した件数がどのくらいあったのか、分かりませんね?

(私)う~ん、それは分からないね。だいたい、病院でHIV検査を受ける人は大きく3パターンある。1つは本人が自主的にHIV感染が不安になって検査を受ける人だ。これは意味合いとしては保健所と全く同じだね。近くに保健所がないとか、病院で他の検査といっしょに受けるとか、そんな理由だね。

(陽介)なるほど。

(私)2つ目は手術前のスクリーニング検査だね。患者本人の治療を的確に行うため、あるいは院内感染を防ぐために患者本人の了解の元に行われる。

(陽介)はい。前に『手術前には必ずHIV検査?』というお話で教えてもらいましたね。

(私)うん、そうだったね。それから3番目が梅毒やクラミジアなどの性感染症で陽性になったときだね。同じ感染ルートなのでほとんどの医師がHIV検査も勧めると思う。

以上の3つのパターンが病院でHIV検査を受けるケースだね。

(陽介)でもその件数がどのくらいあったのか、それは分かりませんね?

(私)そうだね、それは分からないね。病院でのHIV検査は匿名検査じゃないからね。HIV検査を受けたことは患者の個人情報となるよね。それを外部に出して集計は出来ないと思う。第一、件数が多すぎて集計コストが大変だろう。

(陽介)なるほど・・・。

(私)ただね、病院でのHIV検査の件数は分からないけど、その検査で見つかったHIV感染者の件数は分かってるんだ。

(陽介)そうなんですか。ぜひ教えて下さい。

(私)「HIV感染者の早期発見と社会復帰のポイント」(医薬ジャーナル社)によると、次の2つの事例が紹介されていた。

●東京都(2008年) 新規HIV感染者 545件 このうち、保健所及び公的HIV検査所で報告されたものが174件(31.9%)

●全国(2007年) 新規HIV感染者の約35%が保健所及び公的HIV検査所で報告されている。

こんな数字だね。ちなみに、2007年の新規HIV感染者は1,500件(新規エイズ患者含む)で、保健所及び公的HIV検査を受けた件数は153,816件だった。(エイズ動向委員会資料より)

だから、約15万人が保健所でHIV検査を受け、525人(35%)のHIV陽性者が報告された。残り975人(65%)は保健所以外の病院で報告されたわけだね。

(陽介)なるほど。病院でのHIV検査の件数は分からなくても、新規HIV感染者の65%は病院で報告されている訳ですね。

(私)そういうことになるね。ただし、この他に献血でHIV陽性が見つかることもある。献血件数は年々減少してるんだけど、それでも年間に約500万件くらいある。そしてHIV陽性が100件くらい見つかっている。

(陽介)あ~、おじさん覚えてます。『献血のNAT検査をパスしたHIV』と言うお話で教えてくれましたね。

(私)そうだったね。

(陽介)でも、献血で見つかった100件はどういう扱いなんでしょうか?どこでカウントされるんですかね?

(私)それは私も知らないけど、恐らく日赤から本人へ非公式に告知がされ、本人が改めて病院で診察を受け、病院から報告が上がるんだと思う。HIV感染者、エイズ患者は見つかったら7日以内に保健所経由で都道府県知事へ報告する義務があるんだよ。

その報告を日赤がやってるとは思えない。なぜなら、献血で見つかったHIV陽性は本人へ告知しないのが建前なので、保健所への報告業務を日赤が公式にやるはずないと思うな。

(陽介)なるほど、分かりました。では次にHIV陽性者の件数に関してなんですけど。保健所と病院で陽性者の件数が二重にカウントされることはないでしょうか?

(私)うん?どういうことかな?

(陽介)保健所でHIV陽性判定を受けた人が、実は病院でもHIV陽性判定を受けていた場合です。どちらも陽性なら二重にカウントされる可能性があるのでは?

(私)なるほど。それを言いだすと、複数の保健所でHIV検査を受け、それぞれ陽性になる可能性もあるね。もしも本人がその事実を言わないと、保健所では確認できずに二重カウントになるかも知れない。

(陽介)でもおじさん、さっきHIV感染者は見つかったら7日以内に報告する義務があるって言いましたよね。この時点で患者が特定されるから二重カウントは防げるのでは?

(私)いや、HIV感染者、エイズ患者の報告書には患者の名前や住所は記入されない。患者を特定することは出来ないんだよ。

ほら、これが報告書のフォーマットだよ。

(陽介)本当ですね。これじゃ分からないですね。

(私)でもまぁ、別々の場所でHIV検査を受ける人はいるだろうけど、HIV陽性が確定すればその後治療を受ける訳で、その時点で事情は分かると思うな。他の病院や保健所でHIV陽性判定を受けてないか確認するんじゃないかと思う。あくまで私の推測だけどね。

(陽介)分かりました。それでは最後の3つ目なんですけど、感染ルート別の件数についてです。これって、どの程度正確なんでしょうか?

(私)というと?

(陽介)ネットの相談サイトにも書いてあったんですけど、例えば男性同士の性的接触で感染したと思われる人が、カミングアウトできずに異性間の性的接触だと申告するようなこともあり得ると思うんです。すると正確な件数は分かりませんよね。

(私)確かにね。でも、それを言いだすとそもそもの集計基準があいまいなんだよ。

(陽介)どういうことですか?

(私)厚生労働省エイズ動向委員会の公表資料によれば、同性間の性的接触の定義はこう書かれている。

『両性間性的接触を含む。』

とね。つまり、同性とも異性とも性行為を行う人が含まれているんだよ。

(陽介)という事は、どちらで感染したか分からない場合もありますよね。

(私)そうだね。実際問題、公表されている感染ルートの件数でも、10%以上が不明とされている。むろん、不明の中身は色々だろうけどね。

(陽介)なるほど。でも分からないものが不明になってると言うことは、数値が出てるものはそれなりに正確ってことですね。

(私)私はそう思うよ。むろん、自己申告が基本だから、事実と違う申告があれば正確さは担保されないけどね。

(陽介)分かりました。それと最後になるんですけど、自宅で使える検査キットで陽性になった場合はどうなるんでしょうか。これはネットの相談サイトには出てないんですが、僕が気になってるんです。

(私)うん、確かに今や1年間に利用されるHIV検査キットは6万5000個以上となっている。当然、HIV陽性者も出てるはずだね。

(陽介)ですよね。その場合の扱いはどうなんでしょう?

(私)うん、検査キットの場合はあくまでもスクリーニング検査であって、仮に陽性判定が出てもまだHIV感染は確定しない。更に確認検査を受ける必要があるんだね。

そしてその確認検査は検査キットでは出来ない。保健所か病院に行って確認検査を受けることになるんだ。だから確認検査でも陽性判定となり、HIV感染が確定するのは保健所か病院なんだね。

(陽介)そうですか。すると保健所や病院から報告がいくからちゃんとカウントされる訳ですね。

(私)その通りだよ。これで疑問は解けたかい?

(陽介)はい、おじさんよく分かりました。

(私)それじゃ今回はこの辺にしておこう。

(陽介)おじさん、ありがとうございました。

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