昨年11月末に発生した献血によるHIV感染。あれほど世間の関心をひいたニュースも今ではすっかり忘れ去られようとしています。いったいその後の対策はどうなったのでしょうか?

私が調べた対策を甥っ子の陽介に話しますので、ぜひあなたもごいっしょに聞いてください。

(甥っ子陽介)おじさん、献血からのHIV感染、その後どうなったんでしょうね? (私)陽介、厚生労働省と日本赤十字社で色んな対策が検討されているよ。
陽介 私

(陽介)そうなんですか?でも、昨年末はあんなに大々的なニュースになったHIV感染なのに、今ではすっかり影をひそめて忘れ去られたみたいですよ。

(私)まぁね、今の日本じゃHIVやエイズはそんなにニュースになって表に出ることがないからね。

(陽介)でもおじさん、献血でのHIV検査をすり抜けてHIV感染者の血液が輸血に使われた、という深刻なニュースでしたよね。とても重大な関心事だと思うんですけど。

(私)それは陽介の言う通りだ。今も日本中至る所で輸血を必要とする患者がいて、同時に日本中で献血も行われている。そして私たち誰もがいつ輸血を必要とするかも分からない。決して他人事じゃないね。

(陽介)それに僕は年に数回は献血に行ってます。だから同じ献血に来た人の中にHIV検査目的の人がいるかも知れないと思うと許せない気持ちなんです。

(私)そうだね。いかにしてHIV検査目的の献血をなくすか、これも大事な問題だね。

(陽介)以前おじさんが、 『献血のNAT検査をパスしたHIV』 というお話をしてくれましたよね。そのとき、献血のHIV検査をもっと厳しくして輸血に使われるのを防ぐという話だったと思います。それって、その後どうなったんでしょう。いつごろ、どんな風に改善されるんですか?

(私)そうだね。あまりその後のニュースは出ないから陽介のように知らない人がほとんどだろうね。

(陽介)正式に対策が決まったんですか?

(私)まぁ、100%全てが決まったという訳じゃないいけど、決まったものもあるし検討中のものもある。

(陽介)そうなんですか。それじゃおじさん、決まったものは何か教えてください。

(私)分かった。実はね2013年12月18日に厚生労働省と日本赤十字社の関係者が集まって会議を行っている。それは「平成 25 年度第 5 回血液事業部会運営委員会」という会議なんだけど、その会議の中で対策が検討されている。

「平成 25 年度第 5 回血液事業部会運営委員会」

(陽介)おじさん、この会議の中でいったいどんなことが話し合われたんですか?

(私)うん。この会議は会場が公開された上に詳細な議事録も公開されている。大変興味深い議事録だ。

(陽介)おじさんはその議事録を読まれたんですか?

(私)ああ、読んだ。その議事録によると、まず献血によるHIV感染対策として次の5項目が上げられている。

①問診の見直し

②海外における献血の感染予防調査

③個別NAT検査

④輸血用製剤の不活化

⑤遡及調査のリマインド

この5つだよ。

(陽介)うーん・・・・。①と③は何となく分かりますが、②、④、⑤は何のことだかサッパリ分かりませんね。

(私)そうだろうね。それじゃ私が順番に説明してあげよう。

(陽介)はい、よろしくお願いします。

◇問診票の見直し

(私)まず、①番目だね。昨年のHIV感染発生のニュースでも報道されたけど、問題の男性は献血前の問診にウソを答えたとされた。

(陽介)あ~覚えています。本来なら献血をしてはいけない項目に該当するのに、それを隠していたんですね。

(私)そうだ。それでHIV検査目的の献血だと言われた。そういうことがあって、今後は献血前の問診も見直さなければならないとしている。

(陽介)どんなふうに見直されるんですか?

(私)そうだね。私が議事録を読んだ限りではこんな感じだね。

・問診に正しく回答しなかった場合、輸血を受けた患者に非常に深刻な状況を及ぼす可能性があることを伝える。

・仮に献血後のHIV検査で陽性になっても献血者に検査結果は伝えないと明記する。

この2つが主な見直し点かな。

要するに軽い気持ちで献血をHIV検査代わりに使うと本人が想像もしていなかった重大で深刻な事態を招くこともあるとイメージしてもらおうって訳だ。その上、検査結果は教えないのでHIV検査代わりにはなりませんと宣言するんだね。

(陽介)でも、 『ついに日赤関係者が語った』 のお話でもあったように、検査結果の告知に関しては本音と建て前が違うような・・・

(私)確かにね。その告知についてはまた後で話すよ。会議の中でもやり取りが記録されている。

(陽介)そうですか。分かりました。

◇海外での実態調査

(私)次に②番目の海外の実態調査だ。これは、献血前の問診でウソの回答をすると罰せられる国もあって、そういった国へ実際に行って実情を調べようと言う訳だ。仮に日本でもそういった法整備をしようとしたとき、何が問題で、どんな効果があるのかを検証する参考になるよね。

(陽介)なるほど。献血前の問診でウソの回答をすると罰せられる国って、例えばどこですか?

(私)厚生労働省が平成15年(2003年)にこんな報告書を出している。

『献血者及び血液の安全性向上のための問診のあり方に関する研究』

この報告書によると、ノルウェー、オーストラリアが該当する例として取り上げられているね。実際の問診票も出てくるけど、かなり細かくチェックされている。そして、ウソの回答をすると罰則があると明記されているよ。

(陽介)そうなんですか。それにしても、平成15年の時点ですでに昨年のような事態を予測して対策を検討していたんですね。

(私)そうだね。何しろ毎年献血後のHIV検査で100件近い陽性が見つかっている。厚生労働省や日赤としても当然リスク対策は考えていたはずだね。⇒補足資料①

◇個別NAT検査

(陽介)それから③番目がNAT検査の個別化ですね。NAT検査は以前、『最速HIV検査NATはどこで?』のときに教えてもらいましたね。

(私)そうだったね。私たちがHIVに感染したとき、最も早くそのHIV感染を見つけることが出来る検査がNAT検査だね。

(陽介)そして、今までは日赤では献血者20人分をまとめてNAT検査していたんですよね。

(私)その通りだ。そして今回、このNAT検査もすり抜けてHIV感染が起きてしまったので、更にNAT検査の精度を上げるために完全個別化、1人分ずつ検査することにしたんだよ。

(陽介)前におじさんが教えてくれた話だと、NAT検査は最初は50人分ずつ検査してたんですよね。それがHIV感染発生を受けて20人分ずつ検査することになった。そして今回、更に完全個別化となったわけですね?

(私)その通り。日赤関係者の話だと2014年の8月までには完全個別化検査へ移行するらしい。

(陽介)でも、今まで20人分ずつ検査していたのを1人ずつにすれば、単純計算で20倍時間と手間がかかりますね?

(私)そうだね。そこで日赤ではNAT検査が出来る拠点を増やすと言っている。現在NAT検査は、北海道、東京、京都、福岡の4ヶ所で行われている。それを8ヶ所に増やすらしい。ただ、具体的な増設場所は会議の議事録には出てこない。

(陽介)それでおじさん、完全個別化のNAT検査になればもう安心ですか?

(私)いや、それがそうはいかない。どこまでいってもやはりHIV感染を見逃す可能性は残るんだよ。

(陽介)あちゃ~、そうなんですか。

(私)この会議の議事録にはHIV感染後何日から検査が可能になる、といった具体的な改善効果は書かれていない。私が調べたところでは、日赤関係者が別の専門家会議の中で、個別化の効果を次のように説明している。

『HIVに感染してから検出できるまでの期間を数日間短縮できるものの、新しい検査方法でも感染から6週間程度はウイルスの量が少なく、検査をすり抜けてしまう。』

と言っている。この発言は2014年3月19日に行ったもので、各メディアで取り上げられている。

(陽介)えー!6週間?それって、えらく長いですね!完全個別化しても6週間もかかるんですか?

(私)今、全国の医療機関で行っているNAT検査では感染後12日目から検査可能としているんだ。その期間からすると6週間というのはどう考えてもおかしい。

むろん、病院では1人分ずつの検査しかしないから、今までの日赤が20人分まとめて検査していたのとは比較できない。でも、今度は日赤も完全個別化、1人分ずつ検査すると言っているから病院のNAT検査とウインドーピリオドが同じになるはずだ。

(陽介)それじゃ日赤が言ってる6週間ってやっぱりおかしいですね。

(私)そうだね。そもそも日赤は20人分をまとめて検査するNAT検査では、ウンドーピリオドを6週間と言ってきた。例えばこちらの日赤のホームページ。⇒ 『日本赤十字社』

ここにはウインドーピリオドは6週間と書かれている。

これを今年の8月末までに完全個別化1人分ずつの検査によってウインドーピリオドを短縮しようとしている。だったら従来の6週間よりも短かくなっていないとおかしい。

(陽介)うーん、聞けば聞くほどおかしいですね。本当のところ、HIV検査の精度はどのくらい改善されるのでしょう。

(私)何とも言えないね。ただ、日赤としてはあまりウインドーピリオドが短くなると言えない事情もあると思う。本当のことを公表すれば献血をHIV検査代わりに使おうとする人が増えるかも知れない。

だからNAT検査が完全個別化されてもHIV検査が不可能な時期は相変わらず存在するんだってことを強調したいのかも知れないね。

(陽介)なるほどですね。

(私)そこはおじさんにもハッキリしたことは分からない。ただ、20人分まとめてのNAT検査が完全個別化されることによって検査精度が改善されることだけは間違いない。

(陽介)はい。分かりました。大いに期待したいです。

◇輸血用製剤の不活化

(私)さて、次は④番目の輸血用製剤の不活化だ。

(陽介)いったいそれは何ですか?

(私)不活化とは、血液中に含まれるウイルスや細菌、原虫などの感染の元になるものを減少させることだよ。不活化によって感染を防ぐんだ。

この方法はHIV検査だけに頼らず、仮に検査をすり抜けた血液であっても感染しないようにするのが目的だ。

(陽介)どうやってウイルスを減少させるんですか?

(私)特殊な熱処理や化学処理をするんだよ。

(陽介)それで感染が防げるなら最高じゃないですか!もう実用化されているんですか?

(私)日本ではまだ導入されていない。しかしヨーロッパやアジア諸国ですでに導入済みの国は多いよ。だけど日本では安全性や輸血製剤としての機能の点でまだ十分な検証が終わっていないとされているんだ。

(陽介)そうなんですか。何だかいつも日本では海外で実績のあるものを導入するのが遅いですね。

(私)確かに安全性は何より最優先だから一概に遅いとも決めつけられないけどね。今後に期待しよう。不活化技術が導入されれば輸血の安全性もぐっと向上するだろうからね。

(陽介)本当ですね。

◇遡及調査のリマインド

(私)さて、最後の⑤番目が「遡及調査のリマインド」だ。

(陽介)おじさん、それいったい何ですか?さっぱり分かりません。

(私)アハハハ、そうだろうなぁ。

●遡及調査=過去にさかのぼって調査すること。

●リマインド=思い出させる、気付かせる。

つまり、昨年末のようはHIV感染が発生した場合、患者に輸血した過去の時点にさかのぼって当時の状況が確認できるような仕組みが必要だってことだね。

(陽介)なるほど。極端な話、いったいどんな血液を輸血したのか分からないと患者に異変があったとき調べようがないですね。

(私)その通り。患者の側だけでなく献血者に問題が発覚した場合も誰に輸血されたのか分からないと対処できない。だから今回改めて遡及調査のリマインドとしてシステムやガイドラインの再確認が取り上げられているんだ。

(陽介)なるほど、よく分かりました。

(私)では、最後にもう一度今日の話をまとめておくよ。昨年11月に発生した献血によるHIV感染を受けて、厚生労働省と日本赤十字社では以下のような対策を話し合って実行しようとしてる。

①問診の見直し

②海外における献血の感染予防調査

③個別NAT検査

④輸血用製剤の不活化

⑤遡及調査のリマインド

この5つだ。

(陽介)こうした取り組みでHIV感染が発生しないようになればいいですね。

(私)そうだね。まずは私たちに出来ることは、絶対に献血をHIV感染代わりにしないことだ。少しでもHIV感染の不安があれば保健所に行くなり、自宅で検査キットを使うなりして検査することだね。

(陽介)おじさん、分かりました。ありがとうございました。

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補足資料

①献血後のHIV検査見つかった陽性件数

献血とHIV陽性

詳しくは姉妹サイト「HIV検査完全ガイド」参照