HIV感染症を症状から判定することは不可能です。しかし、症状から疑うことは可能です。ではどんな症状からHIV感染を疑うべきなのでしょうか?
私が調べたことを甥っ子の陽介に話しますので、ぜひあなたもいっしょに聞いて下さい。
(甥っ子陽介)おじさん、HIV感染症は症状から判断することは不可能なんでしょう? | (私)陽介、その通りだよ。感染してるかどうか、HIV検査を受けてみるしか判定方法はない。 |
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(陽介)HIV感染症は症状から判断することは不可能なんですよね?
(私)そうだよ。この症状が出たらHIV感染症、っていう特有の症状はない。そもそもHIVに感染してもエイズ発症までは自覚症状が出ない。
ただ、感染して2週目から6週目くらいに風邪に似た症状が出ることがあって、これを急性HIV感染症と言うんだよ。
(陽介)あ~、それって以前に『これってHIV感染の初期症状かな?』って記事で教えてくれましたね。
(私)そうだったね。あの時の話を思い出してもらえばいいけど、頭痛や発熱など風邪に似た症状、下痢や腹痛とか、ごく普通に見られる症状が多くてHIV感染に限ったものは何もない。
(陽介)だから症状からHIV感染を判断するのは不可能なんですね。
(私)そうだよ。ただ、私が読んだHIVやエイズの本の多くには、症状からHIV感染を判断することは出来ないが、疑うことは出来る、と言うニュアンスのことが書かれてる。
(陽介)どういうことですか?
(私)つまり、さっきも言ったけどHIVに感染した初期に見られる風邪似た症状や、体調不良を訴える症状からHIV検査につなげると言う話だね。
(陽介)でもおじさん、それって実際問題難しくないですか?僕なんかしょっちゅう風邪で病院に行くけど、ただの一度もHIV検査を勧められたことありませんよ。
(私)そうだろうね。風邪の症状が出ていれば当然風邪を疑うよね。いきなりHIV感染では?なんて疑う医師はまずいない。
(陽介)それで風邪薬もらって4,5日で治ったら、やっぱり風邪だったんだと思いますよね。
(私)そうだね。HIV感染の初期症状も1、2週間で自然と消えるから、本当はHIVに感染していたとしても風邪薬で治ったと思うかも知れない。
(陽介)そう考えると、症状からHIV感染を疑うのって難しいですね。
(私)確かに。実はちょっと前に私はこんな本を読んだんだけどね。
「HIV/AIDS患者のトラブルシューティングとプライマリ・ケア」(南山堂)
岩田 健太郎 編
この本の中に、こんな症状からもHIV感染を疑って欲しい、あるいは疑える、という内容が書かれてるんだよ。
(陽介)という事は、町の病院の医師を対象に書かれてるんですか?
(私)そうなんだよ。一般の町の病院で働く医師、そしてHIV感染者やエイズ患者を専門にする医師、両方の立場を対象に書かれた本だよ。
だから内容がけっこう難しくて、私も書かれていることを全部は理解できなかった。
(陽介)それでおじさん、どんな症状からHIV感染を疑うって書かれてたんですか?
(私)詳しく書いてるとムチャ長くなるから、症状の名前だけを転記してみるね。
1.発熱
2.皮疹
3.リンパ節腫脹
4.咽頭痛
5.頭痛
6.意識障害
7.痙攣(けいれん)
8.めまい
9.麻痺
10.しびれ
11.失神
12.咳、呼吸苦
13.胸痛
14.動悸
15.腹痛(下痢なし)
16.腹痛(下痢あり)
17.嘔気、嘔吐
18.便秘
19.吐血、喀血、下血
20.腰背部痛
21.関節炎、関節痛
22.血尿
23.浮腫
24.睡眠障害
25.不安、うつ
26.肝機能障害
27.腎機能障害
28.貧血、血球減少
29.電解質異常
とまぁ、こんな感じで29種類もの症状が載ってた。
(陽介)あのぅ・・・おじさん・・・これって、マジですか?こんなにいっぱいの症状がHIVと関連があるんですか?
まぁ、最初の方の症状は分かりますよ。発熱、皮疹、リンパ節、咽頭痛、頭痛なんてのは、前におじさんに教えてもらった時も出てきましたよね。
でも、便秘とかめまいって、何の関連があるんですか?
(私)そう思うだろうな。でもHIV感染による症状は全身に及ぶから、ありとあらゆる臓器、神経、部位に及ぶんだね。今陽介が言った便秘をちょっと説明してみようか。
(陽介)はい、お願いします。便秘からHIV感染を疑う人なんてまずいませんよね。
(私)そうだね。この本の中にはこう書かれているよ。
『HIV感染者では、しばしば代謝、内分泌障害による便秘があり、これらは検査しなければ(疑わなければ)診断出来ない』
と書かれている。まさに陽介が言ったように、普通便秘の症状でHIV検査なんて絶対やらないから、まずはHIV感染も疑うことが大事だと言う訳だ。
本の中では実に10ページにも渡ってHIVと便秘の関連について書かれてる。
(陽介)ひゃぁ~!10ページもですか!HIVと便秘なんて、全く結びつかないと思ったんですけどね。
(私)だからさっきも本の一部を紹介したけど、まさに「疑わなければ診断出来ない」ということだよね。
そしてこの本の目的は町のお医者さんに、もっとHIV感染を疑って欲しいと言ってる訳だ。
(陽介)それって、自分ではHIV感染に気付いてない人、HIV検査を受ける気もない人、そんな人が先ほどあげた症状で診察に来たとき、その機会を逃さずHIV検査を受けてもらうってことですね。
(私)そうだね。エイズ発症前にいかに早期にHIV感染を見つけるか、それには専門病院だけじゃなくて一般病院における診療が大事だって言う訳だね。
(陽介)でもおじさん、最初に僕が風邪で病院に行ったときの話をしたけど、ここらの病院でHIV検査の話なんてまず出ないですよ。
(私)確かにね。それは私も同感だね。今の日本では1年間に報告される新規HIV感染者が約1000人、エイズ患者が500人弱、合計1,500人くらいだ。
このうち、病院以外の保健所などで報告される人も多いから、病院で報告されたHIV感染者はもっと少ない。だとすると、陽介、どうなる?
(陽介)う~ん、HIV感染者の少ない土地、あるいは小さな病院などでは、まずHIV感染者に遭遇することがない、ってことですね。
(私)その通り。件数は少なくても年間に何人かの患者を診ていれば、その経験からHIV感染を疑うようにもなるだろうね。
でも、全く未経験だと疑いもしない。それはある意味当然かも知れない。
(陽介)だとすると、さっきの29の症状からHIV感染を疑うなんて現実的じゃないですね。
(私)まぁね。だからこそ、こんな本が出版されるんだろう。すでに出来てたら本を出す意味ないからね。出来てないからこそ、もっと注意して欲しい、配慮して欲しいと本を出してる。
(陽介)でもおじさん、さっきの29もの症状が並んでるのを見ると、身体のどこかに異変があったらみんなHIVに関係するかも知れないって気がしますね。
(私)それはさっきも言ったけど、HIV感染症は全身に及ぶからどこに異常が出てもおかしくない。でも、それってHIV感染者にそういう症状が多くみられるってことであり、その逆は言えない。
(陽介)つまり症状からHIV感染を判断できないってことですね。結局ここに戻っちゃうわけですね。
(私)そうだよ。私にも医療の世界の内部の話は専門家じゃないから分からない。さっきの本に書かれてることが、医療現場で可能なのかどうなのか、それは分からない。でも、1つだけハッキリしてることがある。
(陽介)え?ハッキリしてること?おじさん、それは何ですか?
(私)HIV感染の可能性は自分自身にしか分からない。少しでも不安や心当たりがあれば、自分の判断でHIV検査を受けることだ。
例え何も自覚症状がなくても、医師に勧められなくても。これだけはハッキリしてる。
(陽介)なるほど、そうですね。医者がどうするかって話は医者に任せるとして、僕たちが出来ること、やるべきことはHIV検査を受けることですね。
(私)そうだよ。自分の身は自分で守るんだ。医者がこれはHIV感染かもしれなと疑うような症状が出たときは、すでにエイズを発症してるかも知れない。
これまでにも何回も教えたけど、エイズ発症後の治療開始はその後の生存率や後遺症の問題が出てくる。
(陽介)そうでしたね。エイズ発症前の治療が大事なんですね。おじさんがいつも言ってる、早期のHIV検査は救命的検査ってやつですね。
(私)そうそう、それだよ。岡慎一氏(国立国際医療センター エイズ治療・研究開発センター長)の受け売りだけどね。
(陽介)結論として、症状からHIV感染を疑うことは専門家でも難しく、少しでもHIV感染の不安があれば検査を受けるしかない、そういうことですね。
(私)そうだね。HIV感染の不安や心当たりがあって、その上更に身体に異常を感じていればなおの事早くHIV検査を受ける必要があるね。
(陽介)自分の身は自分で守る、早期のHIV検査は救命的検査である、ってことですね。
(私)その通り。それが今回の結論だね。ではこれでお終いにしよう。
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