ある日あなたの元に1本の電話がかかってきます。
そしていきなりこう言われます。
「あなたの知り合いのAさんがこちらの病院のHIV検査で陽性と分かりました。あなたもHIVに感染している可能性があるので至急保健所か病院でHIV検査を受けて下さい。」
さて、あなたはどうしますか?むろん、Aさんは実際にあなたの知り合いであり、お付き合いした過去のある元カノ(元カレ)でした。
あなたはHIV検査を受けるべきか、それともこの電話は無視でいいのか?
私が気になったネット上の相談書き込みを調べてみました。その結果を甥っ子の陽介に話しますのであなたもいっしょに聞いて下さい。
(甥っ子陽介)おじさん、今日のお話しはどんな内容ですか? |
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(私)陽介、いきなりだけど、もしもお前にこんな電話がかかってきたらどうする? |
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(陽介)え、どんな電話ですか?
(私)「あなたの知り合いのA子さんがこちらの病院のHIV検査で陽性と分かりました。あなたもHIVに感染している可能性があるので至急保健所か病院でHIV検査を受けて下さい。」
A子さんってのは陽介が過去に付き合った実在の女性だとする。さぁ、陽介どうする?
(陽介)え~!!!何ですか、それって!!!いきなりそんな電話がかかってきたら僕は頭真っ白、パニックですよ。
(私)ハハハァ、そうだろうな。A子さんが実在して知ってる女性で、しかも深い仲だったら正直怖いだろうな。
(陽介)そうですよ!怖いに決まってます。
(私)で、陽介はどうする?HIV検査を受けに行くかい?
(陽介)そうですねぇ・・・。むちゃ怖いから多分HIV検査を受けに行くと思います。
(私)ということは電話の話を信用するってことだね?
(陽介)そうですね。ある人のHIV感染が分かった時点で、医療関係者はその人と関係のあった人に対してもHIV検査を受けるように勧めるんでしょう?
(私)そこは非常にデリケートなプライバシー問題を含んでるね。
(陽介)でも教えてあげないと、HIV陽性者の元カレ、元カノさんも感染している可能性がありますよね。エイズ発症を予防する必要があるし、更にHIV感染が拡大していく恐れもあります。
(私)確かにそうだね。ただ、今回の例で言えば陽介に電話したことでA子さんがHIV陽性者であることが漏れてしまった。
(陽介)それは確かにそうですね。A子さんがHIV陽性だと言わないと僕がHIV検査を受ける理由がないですもんね。でもそれはA子さんが了解した上で病院が電話をかけてくることもあるでしょう?
(私)確かにそのケースならあるね。厚生労働省がネット上で公開している、
というドキュメントには、HIV陽性の告知を受けた本人からの依頼があれば医療関係者や支援者が本人の代わりにHIV検査を受けるようパートナーへ勧めるのはありとしている。あくまで本人の了解を得て、本人からの依頼があった場合だけどね。
(陽介)なるほど。本人が自分で連絡するのって勇気がいりますもんね。代わりに連絡して欲しいと思う人だっていますよね。
(私)そうだね。
(陽介)ということは、本人に無断でパートナーや元カレ、元カノにHIV検査を勧めることはないんですね?
(私)それはない。さっきも言ったけどそれは本人の了解なしにHIV陽性を漏らすことになる。個人情報の漏洩になるから出来ないよ。例え家族にもかってに連絡することはない。むろん、会社や学校などに連絡することもない。
(陽介)情報の守秘義務が法律で決められているんですよね。
(私)そうだよ。「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」という法律で正当な理由もなく情報を漏らすと6ヶ月以下の懲役又は50万円以下の罰金だ。
(陽介)それって以前に「HIV/エイズは全数報告」で教えてくれましたね。
(私)そうだったね。
(陽介)それじゃ最初におじさんが僕に言った電話は実際にあり得るってことですね。
(私)いや、あんな言い方で電話がかかってくることはないよ。最初にA子さんの了解の元、Aさんの依頼で電話していることを陽介に説明するはずだ。それ抜きで話が始まることはない。
(陽介)なるほど。
(私)ただね、さっきの法律は1999年4月1日に施行されてるんだけど、その前には「エイズ予防法」という法律が1989年に作られてて、この法律は本人の承諾なしでも情報公開が出来た。
(陽介)え!そうなんですか。
(私)そうなんだよ。本人がHIVに感染していること、また本人から別の誰かに感染している可能性があることまで情報公開することが出来た。いや、出来たというより義務化されていた。
例えばA子さんがHIV陽性と分かれば陽介が元カレであっても感染の可能性があると医師が判断すると陽介の氏名が都道府県知事に報告される。
(陽介)え~!僕の名前が知事に知られちゃうんですか?
(私)そうだよ。そして知事から陽介へHIV検査を受けるよう勧告がくる。そしてその勧告を無視していると次にはHIV検査を受けるよう命令がくる。これに違反すると10万円以下の罰則規定まであった。
(陽介)うへぇ~、そりゃひどいですね!
(私)しかも今いった通報、勧告、命令ってA子さんの判断、意思は関係ないからね。
(陽介)そうなんですね・・・。
(私)エイズ予防法は成立前から人権無視の悪法と指摘されてて、1999年4月の新法改正と共に廃止されたんだ。
(陽介)そうなんですね。それじゃ最初の電話はエイズ予防法の時代だとあり得たんですね。
(私)そうだね。可能性はあったかも知れないね。実例を見たわけじゃないけど。
(陽介)分かりました。
(私)今回の話の大事なポイントは2つだよ。
●HIV陽性者の了解なしに第三者へ告知情報を漏らすことは守秘義務で禁じられている。
●ただし、本人の了解、依頼があれば医療関係者や支援者が第三者へ告知内容を知らせることはある。
(陽介)HIV陽性を告知された本人にとって、いつ、誰に、どう話すかって難しい問題ですね。
(私)そうだね。例えばカウンセリングの専門家が個々のケースに応じてアドバイスするとか、本人だけが背負うには重すぎる問題かも知れないね。
(陽介)相談できる窓口はいろいろありましたよね。
(私)前に「どこに相談すればいい?」って話で紹介したよね。
(陽介)はい、そうでした。
(私)それじゃ今日の話はこの辺で終わりにしよう。
(陽介)おじさん、ありがとうございました。
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