現在、抗HIV医療は進み、早期にHIV感染が見つかればエイズ発症を防ぐことも出来るようになりました。一方で、エイズ発症後の治療は今もなお難しい場合があります。
ゆえに早期のHIV検査は救命的検査なのです。そしてHIV検査を受けるきっかけの1つが既往歴です。
今回は『HIV感染症 診療マネジメント』(医薬ジャーナル社)から早期発見のヒントをお届けします。
(甥っ子陽介)おじさん、HIVに感染していることを早く気が付くにはどうすればいいんですか? | (私)陽介、それはとっても大事なことだね。それには既往歴に着目することも重要だ。 |
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(陽介)その既往歴って何ですか?
(私)既往歴とはこれまでどんな病気にかかったことがあるかという履歴だよ。過去にどんな病気にかかったかを振り返るとHIV感染の危険性が分かるってことさ。
(陽介)ホントですか!?
(私)むろん、確実に分かるわけじゃない。これまで何度も言ってきたけどHIVに感染しているかどうかはHIV検査を受ける以外にない。ただ、「こんな病気にかかっていると、HIV感染も危ない」という病気や症状は分かっている。
(陽介)具体的にはどんな病気ですか?
(私)大きく分けて2通りの症状・病気があるよ。
1.性行為によって感染する病気
2.免疫低下によって発症する病気
この2つだよ。
まず、性行為によって感染する病気、すなわち性感染症だ。
(陽介)う~ん・・・性感染症に感染しているとHIVにも感染している危険があるってことですか?
(私)その通りだ。何しろ感染ルートが同じ性行為だからね。具体的な病名としてはこんな病気だよ。
●梅毒
●B型肝炎
●クラミジア感染症
●淋菌感染症
●アメーバ症
●尖圭コンジローマ
●性器ヘルペス
こうした性感染症だね。
(陽介)あっ!思い出しました!このお話は以前に教えてもらったことがあります。確か、『HIVと重複感染が多い性感染症』というお話だったと思います。
(私)そうだったね。そのときは、
●梅毒やクラミジア、淋菌に感染しているとHIVにも感染しやすくなる。
●HIVと梅毒やB型・C型肝炎を重複感染すると症状が重くなったり、進行が早くなることがある。
こんな話をしたね。
(陽介)はい、そうでした。それに付け加えて実際に梅毒やB型肝炎はHIVとの重複感染例が非常に多いとも教えてもらいました。
(私)そうそう、よく覚えてたね。だから今現在じゃなくても、例えば半年前とか1年前とかに梅毒の治療を受けたとか、B型肝炎に感染していることが分かったとか、そういう既往歴があれば必ずHIV検査は受けた方がいい。
(陽介)先ほどのような既往歴がある人は、もしかしたらHIVに感染しているかも知れないという可能性が高い訳ですね。
(私)そうだよ。既往歴を持たない人よりは感染している可能性は高いと考えられるよね。むろん、実際にHIVに感染しているかどうかは検査を受けるまで分からない。あくまでも可能性の話だ。
(陽介)つまり、そうした既往歴をHIV検査を受けるきっかとして考えればいい訳ですね。
(私)そうそう、その通りだ。さっきも言ったけど今現在だけでなく過去に遡って思い出して欲しい。
(陽介)分かりました。ではおじさん、2番目の「免疫低下によって発症する病気」について教えてください。
(私)そうだね。まず、どんな病気を指すのか、具体的に説明しよう。
●結核(特に肺外結核)
●口腔カンジダ症
●帯状疱疹
こうした病気だ。健康な人なら発症しない、いわゆる日和見感染症だね。
(陽介)うーん・・・なるほど。こうした病気はHIV感染による免疫低下によって発症したかも知れない可能性がある訳ですね。
(私)そうなんだ。むろん、日和見感染症はHIV感染以外の理由による免疫低下の可能性もあるから本当にHIVに感染しているかどうかは分からない。ここも可能性の話だよ。
(陽介)おじさん、「肺外結核」ってどんな病気ですか?
(私)これは文字通り、肺以外に結核菌が病気を作る場合だ。肺以外で多いのはリンパ節だね。首の両脇が腫れたりする。
(陽介)なるほど。ではこうした病気がHIV感染によるものか、それ以外の原因か、何か区別する目安みたいなものはないんですか?
(私)難しいね。何度も言うけど最終的にHIVに感染しているかどうかはHIV検査を受ける以外に方法はない。でも、あえて言うならこんな感じかな。
●口腔カンジダ症を何度でも繰り返す。
●帯状疱疹も何度も繰り返す。あるは比較的若い年齢で発症する。
こんな場合はより要注意だね。HIV感染の場合は免疫力が長い時間をかけて段々と低下していく。だから免疫低下による病気を何度でも繰り返すことがある。
(陽介)なるほど、それはひとつの目安になりますね。
(私)だいたい帯状疱疹なんて一度発症して治れば二度発症する人は少ない。年齢も比較的高齢者に多い。それが20代や30代で何度も繰り返し発症するようだとHIV感染の可能性も疑った方がいい。
(陽介)なるほど、分かりました。
(私)最後にもうひとつ大事な話を付け加えよう。
(陽介)何でしょう?
(私)今回説明してきた既往歴に対して、必ずしも病院の医師がHIV検査を勧めるとは限らない、ということだ。
(陽介)えー!そうなんですか!
(私)例えば梅毒感染が判明した患者に対してHIV検査を勧める医師は多いと思うけどクラミジアや淋菌だと勧めないかも知れない。ましてや帯状疱疹だとHIV検査を勧める医師の方が少ないかも知れない。
(陽介)それはどうしてですか?
(私)一般病院ではエイズ拠点病院みたいにHIV感染症の専門医はいないし、それほど多くのHIV感染者と接する機会もないからね。
(陽介)なるほど。すぐにHIV感染を疑うことはないんですね。⇒文末補足資料①
(私)だからHIV感染症やエイズ治療の専門医からすると一般病院でのHIV感染による日和見感染症の診断力アップを期待するんだね。
(陽介)そうなんですね。でも、それじゃ僕が診てもらうような小さな病院だと心配ですね。
(私)やはりHIV検査となると微妙な部分もあるしね。仮に医師にHIV検査を勧められなくても自分で判断して検査を受けることも必要だ。ここを最後にしっかりと言っておきたい。
(陽介)分かりました。今現在、そして過去の既往歴からも自分のHIV感染を疑えってことですね。
(私)そうだよ。HIV感染の心当たりや不安があって、更に既往歴からもHIV感染が疑われるようならすぐにでもHIV検査を受けて欲しい。エイズ発症前の早期検査、早期治療が肝心だからね。
(陽介)いつもおじさんが言っている、早期のHIV検査は救命的検査、ということですね。
(私)まさにその通りだ。では今回はこの辺でお終いにしよう。
(陽介)おじさん、よく分かりました。
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補足資料
①私自身の体験として、40代後半のときに帯状疱疹、全身の発疹、などの症状が続きましたが、私を診察してくれた複数の医師でHIV検査を勧めてくれた医師は皆無でした。一般病院の多くの現実はこうだと思います。