厚生労働省エイズ動向委員会から定期的にHIV感染者やエイズ患者の動向が発表されます。
これは感染症法に基づく全国の医療機関からの報告をまとめて発表しているものです。では、どんな仕組みでHIV感染者、エイズ患者の動向は報告されるのでしょうか。
今回、私の調べたことを甥っ子の陽介に話しますので、ぜひあなたもいっしょに聞いて下さい。
(甥っ子陽介)おじさん、HIV感染者やエイズ患者の人数って、どうやって調べるんですか? |
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(私)陽介、それはね感染症法って法律があって、医療機関は必ず保健所に報告する義務があるんだよ。 |
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(陽介)へぇ、そうなんですか。それを集計してるってことですね。
(私)そういうことだ。今までもにも厚生労働省エイズ動向委員会のデータをたくさん見せてきたけど、あのデータは全国の医療機関が最寄りの保健所に届け出たものを集計してるんだよ。
(陽介)でもおじさん、集計漏れってこともあるんじゃないですか?
(私)う~ん、絶対ないとは言い切れないかも知れないけど、法律で必ず届け出ることに決まってるからね。
(陽介)それってどんな法律なんですか?
(私)さっきも言った感染症法だよ。正式名称は「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律」という長い名前なんだ。
(陽介)ホント、長い名前ですね。
(私)元々エイズに関する法律としては1988年にエイズ予防法が成立し、翌年に施行されたんだ。こちらは正式名称を「後天性免疫不全症候群の予防に関する法律」と言った。
(陽介)そうなんですか。この法律は今はどうなったんですか?
(私)うん、エイズ予防法はエイズ患者の治療よりも管理を優先させているとの批判もあって、1997年に廃止となった。そしてさっき言った長い名前の感染症法へと引き継がれることになったんだよ。
(陽介)新しい法律は何が変わったんですか?
(私)うん、実はこの法律は、「伝染病予防法」「性病予防法」及び「後天性免疫不全症候群の予防に関する法律」を廃止・統合したものなんだよ。
更に、2007年4月1日には「結核予防法」もこれに統合され、全ての感染症を網羅した法律となった。患者の人権を尊重しながら、社会の安全も守ることを基本に改定されたんだ。
(陽介)へぇ~、そうなんですか。それじゃこの法律は全ての感染症を対象にしてるって訳ですね。
(私)そうだよ。
(陽介)それじゃおじさん、いったい何種類の感染症が対象なんですか?
(私)現在のところ、112種類だよ。(2016年8月調査)
(陽介)112種類?そんなにあるんですか!
(私)そうだよ。その112種類が一類感染症から五類感染症まであって、HIV感染症みたいに全数報告されるものと、定点報告されるものに分かれているんだ。
(陽介)定点報告って何ですか?
(私)うん、全国に980ヶ所ほど予め指定されて医療機関があって、ここで見つかった感染者だけが報告されるって仕組みだよ。だからHIV感染症のように全国どこでも全て報告される感染症と違って感染者の全数は分からない。
(陽介)はぁ、なるほど。言わば抜き取り報告みたいなものですね?
(私)そうだね。それで全数は分からないけどその感染症が流行してるのか、感染者が減っているのか、そうした動向調査にデータを使うんだよ。
(陽介)なるほど・・・。112ある感染症は全数報告と定点報告の2種類に分かれるってことですね。
(私)そうだね。112の感染症はこんなふうに分類されている。
図1.全数報告と定点報告
(陽介)なるほど。基本的に全数報告で、五類感染症の25種類だけが定点報告なんですね。
(私)そういうことだ。この定点報告の中に性感染症で言えばクラミジア、性器ヘルペス、淋菌感染症、尖圭コンジローマの4疾患が含まれている。
(陽介)代表的な性感染症ですね。
(私)そしてHIV感染症、梅毒、ウイルス性肝炎は全数報告に指定されている。
(陽介)でも、おじさんさっきも聞いたけど全数報告に指定されても報告漏れってあるんじゃないですか?
(私)まぁねぇ、さっきも言ったけど絶対に報告漏れがないとは言い切れないかも知れない。ただ、法律ではHIV感染者や梅毒感染者と診断したら7日以内に保健所経由で都道府県知事に報告することになっている。
もしも報告義務に違反すると50万円以下の罰金刑があるんだよ。
(陽介)そうなんですか。罰則があるんですね。それじゃ医師も必ず報告しますね。
(私)HIV感染症に関しては世間の関心が高いのでまず報告漏れはないとされてるみたい。でも梅毒なんか薬で完治できるしそれほど関心も高くないので報告漏れがかなりあるとの指摘もされてる。
(陽介)なるほど。病気によっても違うってことですか。
(私)専門家が報告漏れの可能性を指摘する記事を読んだことがあるけど正確な統計データはない。あくまで推測だね。
(陽介)分かりました。それからおじさん、HIV感染者の個人情報はちゃんと法律でも守られているんですか?
(私)そうだね。これはHIV感染症に限らないけど、法律では
「感染症の患者であるとの人の秘密を業務上知り得た者が、正当な理由がなくその秘密を漏らしたときは、6ヶ月以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。」
ってことになってる。
(陽介)そうなんですね。たまにHIV感染者の情報をかってに第三差に漏らしたことがニュースになったりしてますよね。
(私)そうだね。それは法律上でも許されない行為なんだ。
(陽介)分かりました。
(私)今日はHIV感染症(エイズ)が全数報告対象の五類感染症に分類されているって話だよ。分かったかな?
(陽介)はい、分かりました。おじさん、ありがとうございました。
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補足資料
一類から五類までの全ての病名が分かります。また、届け出るタイミングも分かります。HIVや梅毒は診断から7日以内の報告ですが、クラミジアや淋菌などは翌月初日までのまでの報告となっています。