ここ数年は保健所におけるHIV抗体検査の受検数が減少しています。その一方でHIV感染者は増加しています。これは世間におけるエイズの関心が低くなったせいだと指摘されています。

確かに様々なメディアにエイズが登場する機会は減っているように思います。その理由の1つは医学が進歩してエイズの治療法が進み、かつてのような致死的疾患ではなくなったことが上げられています。⇒補足資料参照②

「薬を飲めば大丈夫」

と安易に考える人が増えて、エイズへの関心がなくなってきたのかも知れません。しかし、エイズが今でも怖い病気であることに変わりはありません。いえ、誰もが正しく理解する必要がある病気だと言った方がいいと思います。

(陽介)おじさんエイズは今でも怖い病気なの? (私)必要以上に怖れる必要はないよ。ただ、正しく理解することは大事だね。
陽介 私

(陽介)おじさんエイズって今でも怖い病気なの?昔みたいに死ぬことはなくなったんでしょう?

(私)陽介の言う通り、エイズで死ぬ人は1997年ごろから激減したんだよ。⇒補足資料参照③

(陽介)それって何かいい薬が出来たの?

(私)薬が出来たこともあるし、薬の使い方、つまり治療法そのものが進歩したんだ。ARTと呼ばれる方法で、多剤併用法とかカクテル療法とか呼ばれることもある。1種類の薬だけじゃなくて、3種類の薬を同時に使うんだ。⇒補足資料参照④

(陽介)それでエイズで死ぬことがなくなれば、もう怖い病気じゃなくなったんですね。

(私)いいや、そう安易には言えないよ。薬で死ぬことは激減したけど、完治できる訳じゃない。抗HIV治療は生涯治療になるんだよ。色んな支援はあるけど治療費もかかるし、何より薬を決められた通りに飲み続ける大変さがある。

(陽介)薬を飲む量とか時間のこと?

(私)そうだよ。ARTで処方される薬は医師から指示された通りに時間や量を守らないと、薬の効き目がなくなってしまうんだ。

(陽介)え!それは大変だね。たまには飲み忘れちゃうことだってあると思うんだけど。僕なんかうっかりが多いから絶対忘れそう。

(私)まぁ、たった1回飲み忘れたからといってすぐに効かなくなる訳じゃないけどね。ひと月に数回飲み忘れが出ると危ないそうだ。そのくらいシビアなんだよ。

それに長期間薬を飲めば副作用も心配だね。ARTが始まってまだ15年くらいだから、今後20年、30年と薬を飲み続けたときにどんな副作用が出てくるか、まだ分かっていない部分もあるんだ。むろん、医学も進歩するからその対応法も見つかっていくとは思うけどね。

(陽介)でも、必ず死ぬ病気じゃなくなったのは確かですね。

(私)それは言えるね。ただ、おじさんはこの前『感染宣言』という本を読んだんだけどね。石井光太というルポライターがHIV感染者、エイズ患者を取材したノンフィクションなんだ。その本を読んですごく考えさせられてしまったよ。

(陽介)どんなことをですか?

(私)HIVやエイズが恐くないとか、あまり関心がないとか言ってるのは、どこか他人事だと思ってるからじゃないかとね。本当に自分がHIVに感染したり、エイズを発症したときに「薬があるから平気」なんて絶対に言えないと思う。

(陽介)おじさん、それじゃ僕たちはどうすればいいの?

(私)HIVは日常生活では感染しない。エイズを発症しても絶対に死ぬ訳じゃない。だから私たちは必要以上にHIVを怖がることはないよ。それはHIV感染者への差別や偏見にもつながるからね。

ただ、現実問題としてHIVは一度感染すると完治できないし、抗HIV治療は生涯治療となって、患者の負担が大きいことも事実だ。だからHIVやエイズの正しい知識や情報を知ってまずは予防することだね。他人事だと無関心にならないことが大事だよ。

それは自分を守ることであり、同時にHIV感染者やエイズ患者の差別、偏見をなくすことにもつながるはずだ。

(陽介)了解です!よく分かりました。

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補足資料

①日本におけるHIV感染者とエイズ患者の推移。

HIV・エイズ
エイズ動向委員会発表資料による

新規HIV感染者と新規エイズ患者は重複しません。例えば前年に新規HIV感染者として報告された人が、今年になってエイズを発症しても、それは新規エイズ患者としては報告されません。従って、新規エイズ患者とは、HIV感染に気が付かず、いきなりエイズを発症した人です。日本ではHIV感染者として報告された人の30%以上がいきなりエイズを発症しています。

エイズ発症前にHIV感染が分かればARTによってエイズ発症が防げる可能性があるだけに、いきなりエイズは残念なことです。

②保健所におけるHIV抗体検査受検数

保健所HIV検査正式版2
エイズ動向委員会発表資料による

平成20年(2008年)をピークに受検数は減り続け、横ばい状態からまた少し増加傾向にあります。

③エイズ関連疾患による死亡者推移

エイズ病変データ
エイズ動向委員会発表資料による

このデータはエイズ患者の病変データであり、報告は義務ではなく任意です。従ってエイズ関連疾患で亡くなった方全ての合計ではありません。しかし、1997年を境に死亡者が激減している傾向は読み取れます。

ART=Anti-Retroviral Therapy
「HIV感染症(エイズ)の症状完全ガイド」参照

抗HIV薬情報

⑤追記
決して陽介には言えませんが、私自身かつて深刻なHIV感染疑惑に陥った経験があります。それまでは全くHIVにもエイズにも無関心だったのに、いざ自分がHIVに感染しているかも知れないとなると、パニック状態でした。

エイズの知識がないために今度は無関心から一転恐怖の固まりになりました。検査結果が恐くて保健所にも行けません。どうせHIVに感染していれば死ぬんだから検査を受けても無駄だとまで思いました。

HIVやエイズの知識を持つことは感染予防にはむろん必要ですが、万一あなた自身がHIV感染疑惑に陥ったときや、不運にしてHIVに感染してしまったとき、少なくとも最悪のパニック状態にならずに救ってくれるはずです。

私は3ヶ月間食事ものどを通らないほど悩みましたが、HIV感染は早期発見、治療によってエイズの発症を防ぐことを知ってHIV検査を受ける勇気が出ました。幸いにも検査結果は陰性でした。

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